最新記事

通信網

キーウ近郊、スターリンク衛星とのハイブリッド技術で携帯電話が復帰

2022年4月12日(火)17時40分
青葉やまと

ボーダフォンも独自のサポート

衛星とのハイブリッド網としては、ボーダフォン財団も独自に「インスタント・ネットワーク」を運用している。スーツケース大の小型パッケージに発電機と衛星中継機器を内蔵したもので、被災地などに持ち込み次第すぐに稼働できる。

同財団はウクライナ国内ではインスタント・ネットワークを展開していないものの、欧州6ヶ国のボーダフォン社従業員からなるボランティアの緊急対応チームが、隣接するルーマニアとハンガリーの国境に駆けつけた。駅構内や臨時のテントなどに拠点を構え、ウクライナ難民の通信と充電をサポートしている。

インスタント・ネットワークはアフリカで2013年から国連難民高等弁務官事務所の教育事業用として提供されているほか、2016年のフィジーのサイクロン被害でも復興を支援した。

スターリンクは受信機器1万台が稼働中

ウクライナ・デジタル変革省のアレックス・ボルニャコフ副大臣は4月5日、ワシントン・ポスト紙のオンライン番組にリモート出演し、現在ウクライナでは1万台以上のスターリンク受信装置が稼働中であると明かした。

Alex Bornyakov, Ukraine Deputy Minister of Digital Transformation


北部チェルニーヒウや南東部マリウポリなど、激しい破壊を受けた地域を中心に装置が配備されているという。当初は軍と病院に限って利用されていたが、現在では経済活動を支えるため、一部の企業にも配布が進む。

スターリンクは緊急の通信手段として有望視される一方、アンテナと電波がロシア軍の攻撃目標になるとの懸念も指摘されている。ただしボルニャコフ副大臣は、自身が認識する限り、そのような事態は起こっていないとも明言した。

理由については氏は、あくまで推測だと前置きしたうえで、アンテナが小型で視認しにくいことや、ロシア軍内部にスターリンクの存在が周知されていないこと、そして衛星通信の検出に適した装備をロシア軍がもっていない可能性があることなどを挙げている。

ウクライナでは通信技師が地雷原を超えてスターリンク・アンテナの設置に向かうなど、通信の復旧が精力的に試みられている。ベラルーシ国境に近いリューベチでは、町全体が地雷原と化すなか、地元の通信技術者らがスターリンクのアンテナを各所の屋根に設置し、通信環境の回復を進めている。


もはや現代において、通信環境は生活インフラの一部となった。壮大な衛星通信網と地上での復旧活動の両輪により、現地の生活環境の回復が試みられている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=大幅反発、米中貿易戦争巡る懸念和らぐ

ワールド

ハマス、ガザ地区で対抗勢力と抗争 和平実現に新たな

ビジネス

オープンAI、ブロードコムと提携 初の内製AI半導

ビジネス

米国株式市場=大幅反発、米中貿易戦争巡る懸念和らぐ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇敢な行動」の一部始終...「ヒーロー」とネット称賛
  • 4
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 9
    ウィリアムとキャサリン、結婚前の「最高すぎる関係…
  • 10
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル賞の部門はどれ?
  • 4
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中