最新記事

香港

香港の次期トップに「強硬派」を選んだ中国政府、狙いは「裏目」に出る可能性大

2022年4月12日(火)17時30分
チャールズ・モク(元香港立法会議員)
李家超元政務官

治安対策を期待されて行政長官に就任する見通しの李家超だが…… LAM YIKーPOOL/GETTY IMAGES

<5月8日に予定される香港行政長官選挙に、中国政府は警察出身の李家超の立候補しか認めない見通し。治安対策を最優先させたいとの思惑が浮き彫りに>

5月8日の香港行政長官選挙に、李家超(ジョン・リー)元政務官の立候補が確実になった。

警察組織でキャリアを積んだ李が行政官に転じたのは2012年。政府では治安対策を担い、民主派に対して強硬な姿勢で知られてきた。21年からは林鄭月蛾(キャリー・ラム)現行政長官の下で香港政府ナンバー2の政務官を務め、今月6日に辞任した。

香港で警察出身者が政務官の要職に就いたのは、李が初めてだった。行政長官に就任すれば、やはり警察出身者として史上初になる。

李が行政長官に就任することはほぼ確実だ。行政長官選は、選挙委員の投票によって行われる。しかし昨年施行された新しい選挙制度の下、1500人の選挙委員は、当局が「愛国者」と認定した親中派でほぼ占められている。

過去の行政長官選挙では、自由な選挙という体裁を取るために、中国政府は形ばかりにせよ複数の候補者による選挙を許してきた。しかし地元メディアによれば、5月の行政長官選挙では1人の候補者、つまり李の立候補しか認めない意向らしい。

行政経験が乏しい警察出身者の李を次期行政長官に選んだことは、香港市民の暮らしや香港の経済よりも、治安維持を優先させる中国政府の姿勢を浮き彫りにしている。

共産党にとって林鄭長官は物足りなかった?

現行政長官の林鄭も中国政府の指示に忠実に従い、治安対策に力を注いできたが、共産党指導部にとっては物足りなかったらしい(新型コロナウイルスのオミクロン株対策の不手際も林鄭の失点になった)。李に比べれば穏健なイメージがあり、経済分野の経験が豊富な陳茂波(ポール・チャン)財政長官などの名前も候補として下馬評に上がっていたが、中国政府が選んだのは行政手腕よりも治安対策の実績だった。

もっとも、李を行政長官に据える選択は裏目に出かねない。中国政府は最近、自らの首を絞めるような決定を下すことが増えている。極度の不安により治安維持と国家統制を徹底しようとするあまり、数々の副作用を無視して度を越した強硬な措置を実行するケースが多いのだ。

それは、香港に関する政策だけで見られる傾向ではない。景気後退の長期化や失業の増加などの弊害があっても、上海のロックダウン(都市封鎖)に象徴されるような徹底したゼロコロナ政策を実行したり、テクノロジー業界、教育業界、不動産業界への締め付けを強めたりしている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

EXCLUSIVE-FRB、シティへの改善勧告を解

ビジネス

英、金融指標の規制見直し 業界負担を軽減

ワールド

韓国、ウォン安への警戒強める 企画財政相「必要なら

ワールド

米、台湾への新たな武器売却承認 ハイマースなど11
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 8
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 9
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 10
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 5
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中