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ウクライナの政府アプリが進化を加速、戦禍の国民生活の礎に

2022年4月13日(水)15時45分
青葉やまと

侵攻に伴う失業サービスの申請や、家屋の被害申請などにもすでに対応しており、ユニセフによる難民保護プログラムへの申請も近く可能となる予定だ。

もっとも、ネット上の重要なインフラとあって、侵攻直前の2月23日には大規模なサイバー攻撃のターゲットとなった。ウクライナ・インテルファクス通信によるとフョードロフ副首相は当時、Diiaのウェブ版・モバイルアプリ版とも「現在行われている攻撃の回避に成功し、引き続き安定して稼働している」と発表している。

フョードロフ氏は、英エマージング・ヨーロッパ誌に対してこう語る。「デジタル化の取り組みは続いています。ロシアとの全面戦争のさなか、巡航ミサイルが飛んでくる状況であっても。」

31歳の大臣率いる、若く優秀なチーム

Diiaのダウンロード数は3月上旬までに1300万件を超えており、計算上は国民人口のおよそ3人に1人に浸透している。その後もユーザ数は日に6万人のペースで伸びており、留まるところを知らない。

メッセージアプリのTelegram上で、「いかなるテクノロジー・ビジネスにおいても、これは異常な成長率だ」と語るフョードロフ氏は、どこか誇らしげだ。

氏の率いるデジタル変革省は、Diiaをメインプロジェクトと位置付け、3年をかけて強力に推進してきた。同省で資金調達を主導するディアナ・ラクス氏は米インダストリー・ダイブ誌に対し、「まずは政府サービスの100%をオンラインでデジタル化すること」を省の第1目標に掲げていると説明している。

ラクス氏は続ける。「私たちの大臣(副首相兼任のフョードロフ氏)はまだ31歳と若く、業界の経験があります。私自身も業界の出身です。チームメンバーの多くは若くてモチベーションに満ちており、テクノロジーで世界を変えられることを理解しています。この地球上でリーダーとなるために、技術こそが我々のツールになるのだということも。」

欧州トップのIT国家を夢見たウクライナだが、侵攻を受けてその目標は一時中断したかにもみえる。だが、過去に蓄積した技術を柔軟に拡張することで、Diiaアプリは戦禍の国民生活の礎となった。若いチームによる機敏なサービス提供体制が、国にタイムリーな変革をもたらしているようだ。

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