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複合現実

SFの世界? 地球から国際宇宙ステーションへの「ホロポーテーション」に成功

2022年4月20日(水)16時00分
松岡由希子

NASAのヨーゼフ・シュミット医師は、国際宇宙ステーションに「ホロポーテーション」した......(ESA/Thomas Pesquet)

<高画質な3Dモデルをリアルタイムで送信できる新しい3Dキャプチャ技術「ホロポーテーション」で地球から宇宙との間ではじめて成功した......>

ホロポーテーションとは、人の高画質な3Dモデルを再構築し、圧縮してどこにでもリアルタイムで送信できる新しい3Dキャプチャ技術である。マイクロソフトの「ホロレンズ」などのMR(複合現実)デバイスと組み合わせると、遠隔にいる人がまるで同じ空間に存在するかのように、三次元で見たり、聞いたり、交流したりできる。

ホロポーテーションは2016年頃からマイクロソフトで実用化されてきたが、いよいよ宇宙という極限かつ遠隔の環境下で試験的に導入された。

「我々の物理的な肉体はなくとも、実体はそこに確かに存在する」

NASA(アメリカ航空宇宙局)の航空医官ヨーゼフ・シュミット医師、パートナー企業AEXAエアロスペースのCEO(最高経営責任者)フェルナンド・デ・ラ・ペナ・ジャカ氏らのチームは2021年10月8日、地球から宇宙へのホロポーテーションに初めて成功した。

当時国際宇宙ステーション(ISS)の船長であった欧州宇宙機関(ESA)のフランス人宇宙飛行士トマ・ペスケ氏はMRデバイス「ホロレンズ」を装着し、3Dカメラ「キネクト」で撮影されたシュミット医師やデ・ラ・ペナ氏のライブ画像と国際宇宙ステーションの中で双方向で会話をしたという。

シュミット医師は「これはとてつもない距離を隔てた人類のコミュニケーションを実現するまったく新しい手法だ」とし、「我々の物理的な肉体はそこになくとも、実体はそこに確かに存在する」とホロポーテーションの特徴を表現する。

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シュミット医師と彼のチームがホロポーテーションを行なっている最中 ESA/Thomas Pesquet


人類が宇宙のどこにいようとも地球とつながる

ホロポーテーションは、将来の深宇宙探査にも大きな影響をもたらす可能性がある。たとえば、火星探査ミッションでは、火星との通信遅延が課題となっている。人類が宇宙のどこにいようとも地球とつながり、専門家やエンジニアからミッションのサポートしてもらったり、家族と連絡をとったり、診療や心理カウンセリングを受けたりすることは必要だ。

NASAでは、今後、双方向コミュニケーションによって、地球にいる人を宇宙へ、宇宙にいる宇宙飛行士を地球へ「ホロポート」させる計画を明らかにしている。

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