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BTSの音楽がアメリカ人に受けている理由(評:大江千里)

THE LIGHT AND DARK

2022年4月2日(土)18時30分
大江千里(ニューヨーク在住ジャズピアニスト)

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コロナ禍初期の2020年2月、ニューヨークのグランド・セントラル駅で「ON」を披露するBTS ANDREW LIPOVSKYーNBCーNBCU PHOTO BANK/GETTY IMAGES

携帯に残っている、僕がアメリカに学生として来たばかりの頃(2008年)の写真を見ると、画像のクオリティーが低い。あの頃はあれで十分で、最先端に触れていたつもりだったが、世界じゃソーシャルメディアを通じての情報共有、サブスクリプションによる音楽の聴かれ方の変化、という文明開化の鐘が既に鳴りまくっていたのである。

確か僕が大学1年(その頃47歳)の時、初めて同級生のユダヤ人(18歳)からフェイスブックの友達申請が来てびっくりした。何だこれ? あれからツイッター、インスタ、TikTokとどんどん新しいソーシャルメディアが出た。

一応手広く僕も参加してみるが、どうも思いどおりにいかないのがTikTokとインスタのストーリー。このハードルの低さと素早さが僕にはないのだけど、これをスイスイと使いこなす人がここ数年で格段に増えた。アンテナに引っ掛かる音楽も80s、90sだったり、自由自在なネタで踊ったりしゃべったり短いメッセージをあげてみたり。

BTSのアメリカでの認知度はサブスクというツールを通してそうしたソーシャルメディアも武器にし、真摯に聴き手と向き合うメンバーのパーソナリティーによって一気に広がったのではないだろうか。

自粛期間でも止まらなかった

そしてくしくもこのコロナだ。人々が断絶され心のよりどころに飢えたとき、何が良くて悪いか、未来の価値基準さえ分からなくなった頃、音楽がアートじゃなく、もっと身近で切実なものへと静かに移っていったのではないか。

20年8月に「Dynamite」、11月にアルバム『BE(Deluxe Edition)』をリリースしたBTSの怒濤の快進撃。あのコロナ禍が始まった年にはみんなが同じ「ゼロ」になった。エンターテインメントに関わる全ての人たちが、何もなくなり、落ち込み、計画を断念せざるを得なくなった。

BTSも2月に前作アルバム『MAPOF THE SOUL:7』を出し、本来であればツアーをして世界中のファンとじかに触れ合っていただろう。なのにできなくなってしまった。

僕らが公平に与えられた自粛の時間で彼らがすごいのは、止まらなかったことだ。コロナ時間で逆に得たものを歌詞に還元し、更なる次元へと進化をやめなかった。そのプロセスをどんどんファンとシェアした。

実はコロナ禍が武漢で始まった頃、世の中がマスクで埋め尽くされるとは誰も思っていなかった頃にリリースした『MAP OF THE SOUL:7』にこそ彼らの神髄があると思う。

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