最新記事

北朝鮮

「わが国の体制が戦争で滅べばいい」 ウクライナ情勢を知った北朝鮮の国民の反応

2022年3月17日(木)17時31分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載
金正恩とプーチン

金正恩とプーチン(2019年4月) Alexander Zemlianichenko/Pool via REUTERS

<北朝鮮メディアはウクライナ情勢に関して一切報じていないが、情報は一般国民にも漏れ伝わっており、複雑な反応を示しているという>

ロシア軍がウクライナに対する侵略を開始したのは先月24日のこと。だが、朝鮮労働党機関紙・労働新聞など北朝鮮の国内向けメディアは、このことについて一切報じていない。朝鮮中央通信が、外務省報道官らの「ウクライナ事態の根源は米国と西側の覇権主義政策」にあるとの認識を報じただけだ。

一方で、朝鮮労働党の党員に限っては、ロシアの軍事行動について情報が伝えられていると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。

北朝鮮は外務省報道官が談話を出す際にも、「ロシアがウクライナを侵略している」という核心的な事実には触れないようにしながら、戦争状態だということだけに言及している。

(参考記事:「ロシアの勝利で終わる。我々も韓国を攻撃できる」北朝鮮当局が主張

党員に対する情報伝達も同様だ。

平安北道(ピョンアンブクト)の幹部は、道内各地域の党委員会が先月26日、朝鮮労働党中央委員会の指示に基づき、党員に対してのみ、生活総和の時間に「われわれの血盟であるロシアが戦争中だ」と知らせたと伝えた。

もっとも、国境地帯に住む党員の多くは中国の知人などを通じて、ロシアのウクライナ侵略について既に聞いていたという。いずれにせよ、隣国で独立国家であるウクライナにロシアが侵攻したことに、多くの人が驚きを示し、第3次世界大戦が起きるのではないかと懸念する人もいたとのことだ。

「この忌々しい体制が終わればいい」

さらに、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋は、一般国民の間にも、ロシアのウクライナ侵略に関する情報が急速に広がっていると伝えた。

道内の工場や企業所、行政機関内の党委員長が口頭で伝えたというが、それ以前に、噂が広まっていたようだ。各委員長は、いかなる状況でも戦争に即応できる準備体制を備えるように伝えたが、それを聞いた人々の中には、「ここでも戦争が起きて、この忌々しい体制が終わればいい」という反応を示す人すらいたという。

(参考記事:ロシアを「絶対支持」の北朝鮮、ウクライナ侵攻で経済的打撃

これと似た反応は、2017年に米朝間の緊張が激化したときにも見られた。デイリーNKやRFAの現地情報筋の話を聞く限りでは、北朝鮮の大衆は、戦争に対する心構えなど持っていない。「米軍が攻めてくるかもしれない」という噂話に、恐れおののく人も少なくなかったようだ。

だが、経済難と権力の締め付けで生きていくのが苦しく、戦争が起きて、すべてが「チャラ」になることへの期待を、冗談とも本気ともつかぬ言葉で表しているのだ。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。

dailynklogo150.jpg



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB、政策調整でためらいや先回りはせず=レーン専

ワールド

ロシア、経済スパイ理由に外交官追放 英外務省反発

ワールド

高市首相、赤沢氏を重要物資安定確保担当相に任命 対

ワールド

スペイン、米軍機の領空通過を拒否 対イラン攻撃で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 2
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度を決める重要な要素とは?
  • 3
    ビートルズ解散後の波乱...「70年代のポール・マッカートニー」を再評価する傑作映画『マン・オン・ザ・ラン』
  • 4
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 5
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 6
    【銘柄】東京電力にNTT、JT...物価高とイラン情勢に…
  • 7
    ヒドラのように生き延びる...イランを支配する「革命…
  • 8
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 9
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 10
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 1
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」モナコ舞踏会に見る富と慈善
  • 4
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店…
  • 5
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 6
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 7
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 8
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 9
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 10
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中