最新記事

ロシア

イスラエルにさえ拒否され逃げ場を失うオリガルヒ

Russian Oligarchs Are Running Out of Places to Hide Their Money

2022年3月16日(水)18時34分
ジュリア・カルボナーロ

スペインで差し押さえられたロシアの軍産複合企業のCEOセルゲイ・チェメゾフのスーパーヨット(3月9日)Albert Gea-REUTERS

<プーチン政権を支えてきたロシアの実業家や富豪は、制裁を避けるため豪華ヨットやプライベート・ジェットの隠し場所探しに躍起になっているが、逃避先はほとんどなくなった>

ロシアのウクライナ侵攻を受けて、プーチン政権を支えてきたロシアのオリガルヒ(新興財閥)に対して、欧米諸国は厳しい制裁を科している。資産凍結などの制裁から逃れるために、オリガルヒは他国への避難を画策しているが、これまで欧米とは同調せずに事態を静観していたイスラエルにも受け入れを断られた。

イスラエルのヤイル・ラピド外相は3月14日、スロバキアのイワン・コルコフ外相との共同会議で、イスラエルはオリガルヒの安全な逃避地にはならないと、明言した。

ラピドによると、外務省はイスラエル銀行、財務省、経済省、エネルギー省、空港当局と提携し、イスラエルが「制裁回避ルート」にならないようにするために尽力しているという。

ロシアのウクライナ侵攻を非難しながらも、これまで世界の国々と共に制裁を加えることを拒んできたイスラエルにとって、これはきわめて異例の動きだ。

イスラエルは最近、プライベートジェットやヨットによる入国を監視・制限している。欧州での資産差し押さえを逃れようとするロシアのオリガルヒがイスラエルに避難するのを防ぐためだ。

ロシアとプーチンを取り巻くオリガルヒに対する厳しい制裁が始まって以来、ロシアの大富豪が所有する豪華なスーパーヨットがヨーロッパ各地で差し押さえられている。

消えゆく安住の地

スペインのバルセロナでは、元KGB(国家保安委員会)将校でプーチンと親しく、現在は国営コングロマリットのロシアン・テクノロジーズ(ロステック)を経営するセルゲイ・チェメゾフ所有の1億4000万ドルのヨットが警察に押収された。

またイタリア政府はロシアのオリガルヒ、アンドレイ・イゴレビッチ・メルニチェンコが所有する5億8000万ドルのヨットを押収、ドイツ警察当局は大物実業家アリシェル・ウスマノフの6億ドル相当の豪華ヨットを差し押さえた。今後はドイツ北部ハンブルクの港に留め置かれることになる。

サッカーのイングランド・プレミアリーグ「チェルシー」のオーナーで億万長者のロマン・アブラモビッチも、イギリスとEUの両方から制裁を受けている。クラブの所有権を信託に渡す試みも失敗し、イギリス政府に資産を凍結された。アブラモビッチはプライベートジェットでイスラエルを経由してモスクワに戻っている。

まだ資産を差し押さえられていないオリガルヒたちは今、安住の地をめざして海を渡り、あるいは空を飛ぼうとしている。だが彼らの隠れる場所は急速に失われようとしている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ドイツ外相、中国の「攻撃的行動」を批判 訪日前に

ワールド

ウクライナ大統領、和平交渉は「現在の前線」から開始

ワールド

プーチン氏の和平案、ウクライナ東部割譲盛り込む=関

ワールド

イスラエルで全国的抗議活動、ハマスとの戦闘終結求め
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に入る国はどこ?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 5
    AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する…
  • 6
    恐怖体験...飛行機内で隣の客から「ハラスメント」を…
  • 7
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 8
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 9
    40代は資格より自分のスキルを「リストラ」せよ――年…
  • 10
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 8
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 9
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 10
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中