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台湾はなぜ「政治的リスク」を冒してでも、福島の食品を「解禁」したのか?

Getting Closer to Japan

2022年2月22日(火)19時00分
ブライアン・ヒュー(ジャーナリスト)

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福島近県で生産・加工された食品に対する輸入規制策を緩和する動きは過去11年間に度々あったが、そのたびに激しい反対に遭ってきた(写真は2016年の規制緩和抗議デモ) ZUMA PRESS/AFLO

これと同じ理由から、蔡政権はアメリカとの関係強化も急いでいる。長年にわたり規制していたアメリカ産豚肉の輸入を、2021年1月に解禁したのもそのためだ。

アメリカ産豚肉には、世界約200カ国中180カ国ほどで使われていない成長促進剤ラクトパミンが使用されている。このため台湾でも安全性への懸念から輸入が規制されてきたが、願わくばアメリカと自由貿易協定を結んで通商関係を強化したい蔡にとっては、2016年の政権発足以来の頭の痛い問題だった。

それ故の昨年1月の輸入解禁だったわけだが、国民党は猛反発。輸入規制の再導入を求めて署名を集め、12月の住民投票にかけることに成功した。だが、実際の投票では十分な賛成票を集めることができず、輸入解禁は維持されることに。それどころか、国民党主導で住民投票にかけられた4つの事案は、全て有権者のダメ出しを食らった。

そんな国民党に対する蔡と民進党の優位は、今年1月に台北と台中で行われた2つの選挙で一段と鮮明になった。

台北では、ヘビメタバンドのボーカルとしても知られる民進党系フレディ・リム(林昶佐〔リン・チャンツオ〕)立法委員(国会議員)が地元に貢献していないとしてリコール投票が行われたが、賛成票が必要な割合(有権者の25%)に届かず、リコールは不成立となった。

民進党の立場は盤石だと確認

台中では、昨年10月に陳柏惟(チェン・ポーウエイ)立法委員(台湾基進党)のリコールが成立したことを受けた補欠選挙が行われ、国民党の候補を抑えて、民進党の林静儀(リン・チンイー)が勝利した。

蔡が今回、日本産食品の輸入規制緩和に向けて動いたのは、このように台湾政治の勢力図で民進党の立場が盤石であることを確認してのことだろう。

2期目を迎えた総統としての任期は2024年5月まで十分あり、その政治的影響力は衰えていない。今年11月には、次期総統選の前哨戦となる統一地方選が予定されているため、早めに日本産食品の輸入規制を緩和したいという思いもあっただろう。

だが、国民党が選挙でこの問題を持ち出すのは必至だ。このため蔡は、今回の規制緩和があくまで部分的であること(例えば、野生鳥獣肉やキノコ類の輸入は引き続き禁止)、そして現在も輸入を禁止しているのは世界で中国と台湾だけであることを強調した。さらに台湾原子力委員会は、食品に含まれる放射能物質を検査できる態勢を台湾全土で整えると発表した。

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