最新記事

生命倫理

ブタの心臓を受けた男に傷害の前科──「もっとふさわしい人にあげて欲しかった」と、被害者の遺族は言う

Exclusive: Pig Heart Surgeon Responds to Patient's Prison Sentence

2022年1月17日(月)13時49分
ジェニー・フィンク
ブタの心臓を移植したグリフィス医師(左)と患者

ベネット(右)の手術成功に被害者の遺族は複雑な心境を吐露 University of Maryland School of Medicine (UMSOM)/REUTER

<手術を担当したグリフィス医師は本誌の取材に対し、患者を選ぶ際に前科を調べるのは「倫理に反する」と言うが、今は亡き被害者と遺族の思いはどうか。医学の進歩がまた難問を突きつける>

世界で初めてブタの心臓移植を受けた患者に、犯罪歴があったことが明らかになった問題で、手術を担当したバートリー・グリフィス医師は、犯罪歴を理由に移植の順番が後回しにされるべきではないとの考えを表明した。

心臓移植を受けたデービッド・ベネットは、1988年に男性を刃物で7回刺した罪で有罪評決を受けており、被害者の家族は、もっと「助かるべき患者」に心臓が提供されて欲しかったと述べた。だがグリフィスによれば、誰がどのような治療を受けるかを決める上で、犯罪歴が影響を及ぼすことはなく、ベネットが移植の候補に挙がった時にも、彼が収監されていた過去が議論されることはなかったという。

グリフィスは本誌に宛てた文章の中で、「彼の逮捕歴については何も知らなかったから、本人にもそれについて尋ねていない」と述べ、さらにこう続けた。「我々は患者の前科を調べることはない。それは倫理に反することだと思う」

彼はまた、移植に携わった人のうち、「もう何年も前に起きたこの問題について知っていた人」は一人もいなかったと確信しているとも語った。

「死にたくない」と手術を決断

グリフィスが初めてベネットに会ったのは、2001年。ベネットが人工心肺装置につながれて集中治療室(ICU)に入った時だった。人工心肺装置がなければ、57歳のベネットは翌朝までもたなかった可能性が高いと、グリフィスは本誌に宛てた文章の中で述べた。

ベネットにとって最善の治療法は心臓移植だったが、診療予約をすっぽかすなどの不服従行為が過去があったため、移植適応の条件を満たしていなかった。だがグリフィスは、心臓移植以外にベネットが助かる道はないと判断し、遺伝子を改変したブタの心臓を使う可能性を探り始めた。

グリフィスは2021年12月中旬に、ブタの心臓を移植に使うことをベネットに提案。ベネットは人間の心臓の方がいいと述べたものの、最終的にブタの心臓を使う計画を進めることを決断した。

グリフィスは本誌宛ての文章の中で、次のように述べた。「助かる見込みがどれぐらいあるのかと聞かれ、私は(移植で延命できる時間は)1日かもしれないし、1週間、1カ月、あるいは1年かもしれないと答えた。私たちにも何も分からず、どのようなリスクがあるのかも説明できなかった。だが彼は『死にたくないから、やってみよう。もし私が死んでも、誰かが何らかの教訓を得られるだろう』と言った」

手術は1月7日に行われ、既に1週間が経過。グリフィスは、ベネットの体がブタの心臓に拒絶反応を示すことはないだろうとみており、ベネットが今週中にも車椅子で動けるようになることを期待している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

MAGA派グリーン議員、トランプ氏発言で危険にさら

ビジネス

テスラ、米生産で中国製部品の排除をサプライヤーに要

ビジネス

米政権文書、アリババが中国軍に技術協力と指摘=FT

ビジネス

エヌビディア決算にハイテク株の手掛かり求める展開に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 5
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 6
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    反ワクチンのカリスマを追放し、豊田真由子を抜擢...…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中