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テスラEV「新疆ウイグル自治区ショールーム新設」と習近平の狙い

2022年1月5日(水)18時07分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

まずは中国におけるテスラの現状を見てみよう。

テスラが中国全土に置くEVのサービス・ステーションなど

テスラのホームページによれば、中国におけるテスラのサービス・ステーションが置かれている都市の分布は以下のようになっている。これはホームページにある情報を基に、記号の説明だけを日本語に直して作成したものである。

黄土色の線は中華人民共和国の国境線で、台湾が含まれている。こういった地図上の境界線にはタッチできないので、ホームページにあるままにしてある。

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テスラのホームページから転載

すさまじい数の都市がテスラ・ステーションを置いており、赤いマークには「ショールーム、サービスセンター、スーパー充電ステーション」の3種類がある。

「ショールーム」では「購入前の相談、試乗予約、新車検査、保険相談、仮ナンバープレート処理、アフターメンテナンス」などのサービスを提供する。

「サービスセンター」では車の修理などを行い、「スーパー充電ステーション」では、ものの数分という、非常にスピードが速い充電を実行することができる。

黒色のマークには「目的地充電ステーション」と「ボディショップ」があり、「目的地充電ステーション」は、たとえばホテルに宿泊するなど、長時間をかけて駐車場に車を置いた状態で充電することなどを指すらしい。

このようなものが、全中国をカバーしているので、テスラが中国から撤退するという可能性は低い。

2020年末には、テスラの「シルクロード沿線の中国国内区間」が全て本格的に稼動しており、2021年8月にはテスラの「西北大環状充電線路」が全て開通している。

スマートシティ新疆とEVとのコラボ

1月3日のコラム<ウイグル自治区トップ交代、習近平の狙いは新疆「デジタル経済と太陽光パネル」基地>に書いたように、新疆ウイグル自治区は水力発電や風力発電が豊富なだけでなく、太陽光発電が最も盛んな地域の一つだ。習近平は深センを中国のシリコンバレーに持って行くことに大きな功績を示した、ITに強い馬興瑞を書記として派遣し、太陽光パネル基地建設など、新疆の高度デジタル化を一段と進めようとしている。

皮肉なことに、もともと監視が充実している新疆では、スマートシティへの移行は容易だ。

その「スマートシティ新疆」に、EVは実に相性がいい。

加えて、ウルムチ市のEVの販売台数は約300%増と、爆発的な勢いで増えている。テスラとしては、その「市場」にも期待していることだろう。

テスラは全世界に3万のスーパー充電ステーションを持っているが、その内の8千は中国に設置されているという。スーパー充電機能技術はテスラだけしか持っておらず、その26.6%を中国に注いでいるという事実に注目しなければならない。

習近平がテスラCEOマスク氏と連携して描く「未来都市新疆」

くり返すが、1月3日のコラム<ウイグル自治区トップ交代、習近平の狙いは新疆「デジタル経済と太陽光パネル」基地>に書いたトップ交代の日付は「2021年12月25日」だ。非常に異例の日時であることはコラムで書いた。

ところで、テスラ社が新疆に初めてショールームを開設したという知らせを公表したのは「2021年12月31日」である。

2021年末日という、この日時の一致にお気づきだろうか。

ここには習近平の巨大な国家戦略が潜んでいる。

それは新疆ウイグル自治区をまるでSFのような「未来都市」に仕立て上げようという戦略だ。

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