最新記事

詐称

勤続23年の国際線CA、まったくの別人だった 43年前死亡の少年になりすまし...米

2022年1月11日(火)13時01分
青葉やまと

ベテラン客室乗務員は、まったく別人だった...... (写真はイメージ)Subodh Agnihotri -iStock

<偽の名前、偽のパスポート。空港の保安エリアを抜け、堂々と国際線に乗務していた>

米ユナイテッド航空のウィリアム・エリクソン・ラッドは、乗務経験20年超のベテラン客室乗務員だ。アメリカと南米方面を結ぶ路線に主に乗務し、キャビンでの業務に長年従事してきた。

しかしラッドには、乗客はおろか雇用主のユナイテッドすら知らない秘密があった。胸元に光るネームタグに刻まれたそのアメリカ人名は、43年前に自動車事故で死亡したまったく別人のものだったのだ。ユナイテッドが把握していた経歴も、パスポートの氏名も、来歴のすべてが虚偽であった。

キャビンアテンダントの正体は、ブラジルで生まれ育った49歳の男性だ。実の名をリカルド・シーザー・ゲデスという。死亡したアメリカ人少年の人生を乗っ取ることで渡米を果たし、過去23年にわたりキャビンで笑顔を振りまいてきた。

そのキャリアはあっけなく幕引きを迎えることとなる。舞台となったのは、米テキサス州に位置するヒューストン空港だ。全米9位の規模を誇る巨大なハブ空港であり、ユナイテッドはここを国内南部の拠点と位置づけ、南米へのゲートウェイ空港としても活用している。

昨年9月、ラッドことゲデス容疑者は、検査が簡素化された乗務員専用レーンを通じて空港の保安エリアに入ったのち、身柄を拘束された。偽装された身分証を使用してセキュリティエリアに侵入した嫌疑がかけられている。身柄は最終的に捜査当局へ引き渡された。

現在は裁判のため勾留されており、パスポートの不正申請、身分証の盗用、アメリカ市民へのなりすまし、空港セキュリティエリアへの不正侵入といった嫌疑が掛けられている。

交通事故で他界した少年

では、本物のラッドとは一体誰なのか? いまから43年前の1979年、ワシントン州の田舎町で交通事故が発生し、当時5歳になる目前だった米国人少年が死亡している。この少年こそが、ゲデス容疑者が成りすましに利用したウィリアム・エリクソン・ラッドだ。

ニューヨーク・タイムズ紙によると、ゲデス容疑者は渡米を企てるにあたり、ラッド少年の出生記録に目をつけたという。少年の死亡からすでに17年が経った1996年、ゲデス容疑者は米市民であるラッドを騙ることで、アメリカの社会保障番号を取得した。

さらにこれを身分証として利用することで、2年後の1998年には米国パスポートの取得に成功している。米NBCニュースによるとそれ以来、2020年までの22年間にわたり、少年名義でパスポートを幾度となく更新していたようだ。

しかし、ゲデス容疑者が最後に更新に赴いた2020年12月、米国務省は複数の評価指標に基づき、ラッド名義のパスポートに詐称行為の疑いがあることを検出する。そこで国務省は保安システムにおいて、当該のパスポートに対し、警告のための識別情報を付与した。捜査当局の特別捜査官による捜査を経て昨年9月、空港セキュリティエリアに入った同容疑者は身柄を拘束されることになる。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

EUに8月から関税30%、トランプ氏表明 欧州委「

ビジネス

GMメキシコ工場で生産を数週間停止、人気のピックア

ビジネス

米財政収支、6月は270億ドルの黒字 関税収入は過

ワールド

ロシア外相が北朝鮮訪問、13日に外相会談
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 3
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「裏庭」で叶えた両親、「圧巻の出来栄え」にSNSでは称賛の声
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 6
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 7
    【クイズ】未踏峰(誰も登ったことがない山)の中で…
  • 8
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 9
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 10
    日本人は本当に「無宗教」なのか?...「灯台下暗し」…
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 6
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 7
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中