最新記事

韓国

韓国の「元独裁者」2人、国内での「評価」がここまで違うのはなぜか

Praise and Censure

2021年12月9日(木)21時38分
木村幹(神戸大学大学院国際協力研究科教授)

211214P38_ZEN_02.jpg

朴正煕(写真)と全斗煥の韓国の評価は対照的だ BETTMANN/GETTY IMAGES

加えて言えば、朴正熙は政権掌握後も延命を図るため、72年には「十月維新」と称する2度目のクーデターを行い、憲法秩序を停止し、全土に戒厳令を宣布するに至っている。(社会主義性向が疑われる人物を逮捕した)「人民革命党事件」をはじめとするさまざまな民主化運動弾圧事件や、金大中(キム・デジュン)拉致事件、さらにはアメリカ政府を揺るがした政治工作「コリアゲート事件」を起こしたのもこの政権である。

にもかかわらず、韓国における朴正熙に対する評価は全斗煥に対するものとは全く異なっている。そして全斗煥と同等の非難が朴正熙にも向けられていたなら、その娘である朴槿恵(パク・クネ)が2012年に大統領に選ばれることなどなかったに違いない。

それではどうして、共にクーデターにより政権を掌握し、民主化運動を厳しく弾圧した2人の大統領に対する評価は、かくも極端に分かれることになったのだろうか。通常の説明は、朴正熙が経済発展に果たした役割にその原因を求めるものである。

朴の経済政策の多くは前政権を踏襲

しかし、この説明も奇妙に思える。今日では、朴正熙政権が行った経済政策の多くは先立つ政権のそれを踏襲したものであることが知られている。加えて言えば、彼が79年に暗殺された背景にあったのは、同年に勃発した第2次石油危機に伴う深刻な経済不振と、それに伴う人々の不満である。仮に朴正熙政権が続いていれば、どこまで安定した経済運営ができたかは分からない。

全斗煥が政権を掌握した80年はこの経済危機が頂点に達した年であり、経済成長率はマイナス1.6%を記録する事態になっている。しかし、翌年には7%にまで回復し83年と84年、86年に成長率は10%を超えている。この過程において経済に疎かった全斗煥が、金在益(キム・ジェイク、後に北朝鮮によるラングーンテロ事件で死亡)を大統領秘書室の経済首席に任命して運営を全面的に任せたことは、「経済はあなたが大統領だ」という言葉と共に、よく知られたエピソードである。

その結果、全斗煥政権期の経済成長率は平均で7.9%を維持することになる。韓国が台湾、香港、シンガポールと並んで、経済成長の先頭を走るNIEs(新興工業経済地域)の1つとして注目されるようになるのも、この政権下のことである。ついでに言えば88年のソウル五輪誘致に成功したのも全斗煥である。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

EUが新興企業育成支援案、最短48時間・100ユー

ワールド

米ビザ保証金、12カ国追加 対象50カ国に拡大

ワールド

NATO燃料網、数百キロ東へ延伸を ロシア有事に備

ワールド

ロシア、イラン指導者殺害を非難 米・イスラエル攻撃
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 2
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 3
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 4
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 5
    住宅建設予定地に眠っていた「大量の埋蔵金」...現在…
  • 6
    モジタバの最高指導者就任は国民への「最大の侮辱」.…
  • 7
    「ネタニヤフの指が6本」はなぜ死亡説につながったの…
  • 8
    ガソリン価格はどこまで上がるのか? 専門家が語る…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    「危険な距離まで...」豪ヘリに中国海軍ヘリが異常接…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 3
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製をモデルにした米国製ドローンを投入
  • 4
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 7
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 8
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 9
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 10
    住宅建設予定地に眠っていた「大量の埋蔵金」...現在…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中