最新記事

地球史

地球の水の起源を解明!? 「はやぶさ」が持ち帰った小惑星「イトカワ」の試料を分析  

2021年12月3日(金)17時30分
松岡由希子

太陽風が小惑星に衝突すると、岩石の化学組成に影響を与え、岩石中の物質から水が生成される University of Glasgow/YouTube

<小惑星イトカワの岩石で水が生成されるプロセスが明らかに>

地球表面の約71%は水で覆われているが、その起源についてはまだ解明されていない。地球の水の起源については「太陽系の炭素質の小惑星『C型小惑星』が地球形成期に衝突し、水がもたらされた」との仮説が示されている。

しかし、地球に落下したC型小惑星の炭素質球粒隕石の同位体フィンガープリントを分析した研究結果によると、隕石の水に含まれる水素と重水素の割合が地球のものと一致したのは一部であり、概ね、地球のマントルや海の水とは異なっていた。つまり、地球の水の一部はC型小惑星を起源とする可能性があるものの、地球形成期に太陽系の別のどこかからも水がもたらされたと考えられる。

探査機「はやぶさ」が小惑星「イトカワ」の表面から採取した試料を分析

そこで、英グラスゴー大学、豪カーティン大学らの研究チームは、C型小惑星よりも太陽に近い岩石質の「S型小惑星」に着目し、2010年に帰還した宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ」がS型小惑星「イトカワ」の表面から採取した試料を分析した。一連の研究成果は、2021年11月29日、学術雑誌「ネイチャー・アストロノミー」で発表されている。

小惑星イトカワの姿


研究チームは、試料を構成する元素の3次元空間分布と化学組成測定を行う最先端の材料分析手法「アトムプローブトモグラフィー(APT)」を用い、イトカワの試料を内側50ナノメートルにわたって細部まで分析した。

その結果、太陽風によって岩石が変質する「宇宙風化」により、かんらん石の表面下で水が生成されていたことがわかった。研究論文の共同著者でカーティン大学の惑星科学者フィル・ブランド特別教授は、この試料の分析結果をふまえ「岩石1立方メートルあたり約20リットルの水が存在するだろう」と推測している。

空気がない天体の表面では、水素やヘリウムのイオンが太陽から宇宙空間へと絶え間なく流れる「太陽風」によって岩石や鉱物が変質する「宇宙風化」が起こる。太陽風の水素イオンが小惑星の表面に衝突すると、表面から数十ナノメートル下まで浸透して岩石の化学組成に影響を与え、岩石中の物質から酸素原子が放出されて水が生成される。この研究では、イトカワの試料の表面に水素イオンを照射する実験を行い、水分子が生成されることも確認した。

Space dust analysis could solve mystery of the origins of Earth's water


月や小惑星ベスタなど、空気のない他の天体でも起こりうる

研究論文の共同著者で米ハワイ大学マノア校のホープ・イシイ博士は「イトカワで水を生成させた宇宙風化のプロセスは、月や小惑星ベスタなど、空気のない他の天体でも起こりうるだろう」と考察。また、研究論文の筆頭著者でグラスゴー大学のルーク・ダリー博士は、宇宙飛行士の月面着陸を目指すアメリカ航空宇宙局(NASA)の「アルテミス計画」に言及し、「宇宙風化によって月面にもイトカワと同様の水源があれば、この計画の達成を後押しする貴重な資源となるだろう」と述べている。


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル小幅高、米利下げ観測で5週ぶり安

ビジネス

米国株式市場=ほぼ横ばい、FRBの利下げ期待が支え

ワールド

ウクライナ外相「宥和でなく真の平和を」、ミュンヘン

ワールド

イスラエル、欧州歌謡祭「ユーロビジョン」参加決定 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 6
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 7
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 8
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 9
    【トランプ和平案】プーチンに「免罪符」、ウクライ…
  • 10
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 10
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中