最新記事

サッカー

「時計の針を10年進めた」...本田圭佑がカンボジアで起こした「革命」と、現地の評判

2021年12月4日(土)13時13分
木崎伸也(スポーツライター)

211123P20_HDA_02v2.jpg

カンボジア代表チームとの初練習で(18年9月4日) PRING SAMRANG-REUTERS

本田は攻撃的姿勢を根付かせることを重視し、19年のW杯2次予選で強豪のイラン相手にも守備を固めずに挑んだ。その結果、0対14で惨敗したが、「失点を減らすだけのために試合をするなら、サッカーをやめたほうがいい」と全く気にしていない。

そういう一貫性のある取り組みによってカンボジアに攻撃的なサッカーが定着し、タイ代表の関係者が「まるでフットサルのような細かいパス回し」とたたえるほどになった。

ちなみに本田はカンボジアサッカー協会から報酬を得ていない。渡航費や滞在費のみ協会が負担している。「経済的に発展途中のカンボジアからお金をもらうという発想はない。自分の中でこの活動はボランティアの一環なんです」

本田は2010年南アフリカW杯の際、幼い子供たちが働く姿を目にして衝撃を受けた。それ以降、貧困問題に関心を持ち、インドネシアやウガンダでサッカー教室を開き孤児院を訪れた。慈善団体・国連財団の「青少年のための国際的な支援者」も務めた。カンボジア代表で得た勝利ボーナスは、全て寄付している。

「想像を超えた準備をすればいい」

もちろん、この活動は自分のためでもある。子供の頃から憧れ続けたW杯が関係している。

「やっぱり代表戦の雰囲気って特別なんですよ。日本代表の試合で覚えた気持ちの高まりを、カンボジアの試合でも感じる。選手としてW杯優勝はかなわなかったが監督としてなら可能。いつか日本代表を率いてW杯で優勝したい。そのために監督としてステップアップしなければならない。カンボジア代表で大きな結果を出す必要がある」

今、本田が目標に定めているのが、23年にカンボジアで開催される東南アジア競技大会での優勝だ。とてつもなく高い目標だが、可能だと信じている。「普通のことしかやらなかったら実現できないでしょう。ならば、想像を超えた準備をすればいいんです」

普段、カンボジア代表の選手たちは国内のクラブに所属しており、代表としての活動は限られている。そこで本田は東南アジア競技大会候補選手だけのチームをつくってカンボジアリーグに参戦することを提案。協会もすぐに賛同し、実現に向けて急ピッチで話が進んでいる。今年10月、カンボジアリーグのCEOに就任した斎藤聡も、その熱に突き動かされている1人だ。

「本田さんをひとことで表せば『大きな改革者』。本田さんが何かを提案すると国や協会の意思決定者がすぐに動きだす。カンボジア側も『やれる挑戦は全てやろう』という気持ちになっている。本田さんがカンボジアサッカーの時計の針を10年進めたと思う」

やり方が極端なため、批判はある。だが確実に現地の人たちの心をつかんでいる。

Keisuke Honda
本田圭佑
●サッカーカンボジア代表のゼネラルマネジャー

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、ウクライナの長距離ミサイル使用を制限 ロシア国

ビジネス

植田日銀総裁「賃金に上昇圧力続く」、ジャクソンホー

ワールド

北朝鮮の金総書記、新型対空ミサイル発射実験を視察=

ワールド

アングル:観光客の回復遅れるベルリン、「観光公害な
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋肉は「神経の従者」だった
  • 3
    一体なぜ? 66年前に死んだ「兄の遺体」が南極大陸で見つかった...あるイギリス人がたどった「数奇な運命」
  • 4
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 5
    『ジョン・ウィック』はただのアクション映画ではな…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 8
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 9
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 10
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 6
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 7
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 8
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 9
    「このクマ、絶対爆笑してる」水槽の前に立つ女の子…
  • 10
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中