最新記事

調査報道

「上級国民」たちの腐敗度が露わに...パンドラ文書、衝撃の中身

Enabling Kleptocracy

2021年10月13日(水)18時20分
ケーシー・ミシェル(調査報道ジャーナリスト)

211019P32_PAN_02.jpg

イギリスの高級不動産取引が租税回避や資金洗浄の主要な舞台に LEON NEAL/GETTY IMAGES

アゼルバイジャンの大統領一族絡みの金も定石どおりペーパーカンパニーを経由し、架空名義での不動産の購入に充てられた。その手続きは全てイギリスの法務のプロが手掛け、完全に合法的に行われた(パンドラ文書の最新の分析で、なんとエリザベス女王も知らずにその取引に関与していたことが分かった)。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の愛人とおぼしき人物が地中海地方で優雅に暮らしているのも、イギリスのペーパーカンパニーのおかげだ。プーチン政権に密接なコネを持つ面々(その中には制裁リスト入りし、欧米の金融機関の口座を凍結された人物も複数いる)がひそかに欧米で資金を転がしていることも明らかになった。

ヨルダンのアブドラ国王は透明性の高い行政組織に授与する賞を創設したことで知られるが、自身がアメリカとイギリスで何億ドルもの不動産投資をしていることはひた隠しにしていた。

カザフスタンのかつての独裁者ヌルスルタン・ナザルバエフも「非公式の第3夫人」の名義で欧米に資産を保有している。

英ブレア元首相の隠し資産

そのナザルバエフに演説の手ほどきをしたこともあるトニー・ブレア元英首相の隠し資産も暴露された。ブレアは腐敗とはさほど縁がなさそうだが、実は不正資金に絡んで甘い汁を吸おうとする欧米の政治家の指南役を務めてきた。

首相退任後のブレアは、影響力を利用して民主化や金融の透明性を訴えるのではなく、カザフスタンやアゼルバイジャン、セルビアなど独裁政権がうわべを飾ろうとすることをカネにつなげてきた。

そのブレアが、バーレーンの独裁政権の上層部と直接つながっているオフショア企業と関係があったことがパンドラ文書で明らかになったのも、特に驚く話ではない。

とはいえ、ブレアばかりをいじめるのは公平ではないかもしれない。彼もまた、民主主義の追求を放棄して、泥棒政治の支配者を通じて富を得てきた多くの元民主主義指導者の1人にすぎない。

ゲアハルト・シュレーダー前ドイツ首相はプーチンの最大の応援団の1人だ。アルフレート・グーゼンバウアー元オーストリア首相、ロマーノ・プロディ元イタリア首相、アレクサンデル・クワシニエフスキ元ポーランド大統領も、新進の独裁者たちに助言を与えるという名目でカネを手にしてきた。

民主国家の指導者は、欧米の最大の利益、つまりは民主主義の最大の利益のために働くというそぶりさえ見せなくなった。それどころか、欧米の元指導者は泥棒政治家を利用し、泥棒政治家は欧米の業界をいくつも利用して、それぞれ私腹を肥やしている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

コンゴ・ルワンダ、米仲介の和平協定に調印 鉱物巡る

ビジネス

IMF、日本の財政措置を評価 財政赤字への影響は限

ワールド

プーチン氏が元スパイ暗殺作戦承認、英の調査委が結論

ワールド

プーチン氏、インドを国賓訪問 モディ氏と貿易やエネ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 6
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 7
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 8
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 9
    【トランプ和平案】プーチンに「免罪符」、ウクライ…
  • 10
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 10
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中