最新記事

ミャンマー

マレーシア、ASEANからのミャンマー排除を提案 解決の道筋見いだせぬ加盟国

2021年10月5日(火)14時20分
大塚智彦

これは対中姿勢でASEAN加盟国内に存在する温度差が原因だが、ミャンマー問題でもそうした思惑の違いが当初から顕在化して、ASEANとして一致団結してミャンマーに強い対応をとることを難しくしているという現実がある。

4月24日にインドネシアやマレーシア、シンガポールといった厳しい姿勢の加盟国の主導でインドネシアの首都ジャカルタで開かれたASEAN臨時首脳会議にはミャンマーからミン・アウン・フライン国軍司令官の出席が実現した。

しかしASEAN側が要求したスー・チーさんの即時解放では合意できず、「即時暴力停止や人道支援、ASEAN特使の仲介」などで合意した5項目も実質的にははなんら進展しておらず、膠着状態が続いている。

ASEANの手詰まり感を反映

その後、2021年の議長国であるブルネイのエルワン・ユソフ第2外相を8月にミャンマー問題のASEAN特使に任命して問題可決の糸口を探ろうと努力してきたが、これもなんら成果は上がらない状態が今日まで続いている。

ASEANの関与・仲介を嫌う頑ななミャンマー軍政の姿勢に加えて、ASEAN内部の結束の乱れとそれを見越した軍政のしたたかさが背景にあるとみられている。

ミャンマーと同様にクーデターで実権を掌握して軍政を敷いていたプラユット政権のタイ、軍政が頼りとする中国に極めて近いカンボジアやラオス、人権侵害などの国内問題を抱えて内政干渉を嫌うベトナム、フィリピンと、思惑も背景も異なるASEAN各国だけに、加盟国が一致結束して解決の道筋を探ることの困難さが改めて浮き彫りとなっていた。

今回のマレーシア外相の「ミャンマー首脳の排除の可能性への言及」はこうしたASEAN内の焦りや手詰まり感を反映したものといえるが、どこまで実現の可能性があるかは極めて不透明だ。

そうしたASEAN内の今後の対応を見極めたうえでミャンマー軍政もASEAN特使への対応を明確にするものとみられている。

ASEANは内部の各国による綱引きと同時にしたたかなミャンマー軍政との駆け引きも求められるという難しい立場に追い込まれ、域内連合体としてミャンマー問題の解決に向けた調停、介入は依然として先の見えない状況にあるといえるだろう。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECBは利下げ停止すべきとシュナーベル氏、インフレ

ビジネス

FRB、関税の影響が明確になるまで利下げにコミット

ワールド

インドとパキスタン、停戦合意から一夜明け小康 トラ

ワールド

トランプ氏「ロシアとウクライナに素晴らしい日に」、
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノーパンツルックで美脚解放も「普段着」「手抜き」と酷評
  • 3
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦闘機を撃墜する「世界初」の映像をウクライナが公開
  • 4
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 5
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 6
    指に痛みが...皮膚を破って「異物」が出てきた様子を…
  • 7
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 8
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    「股間に顔」BLACKPINKリサ、ノーパンツルックで妖艶…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 3
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 4
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 5
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 6
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 9
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 10
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中