最新記事

米軍事

中国「極超音速」兵器、迎撃不可能と大騒ぎすることの馬鹿らしさ

China’s “Hypersonic” Missile Test

2021年10月29日(金)12時35分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)

問題の中国のミサイルはそのどちらでもなく、軌道の大半は弾道ミサイルと変わらない。米軍がレーダーを増設すれば迎撃は不可能ではない。

だとすれば、中国の狙いは何なのか。彼らの真意は不明だが、もしかしたら一部の米国防関係者が懸念するように、アメリカのMDシステムの能力を買いかぶって、それを無力化しようとムキになっているのかもしれない。

攻防のイタチごっこに

一部の核戦略専門家は長年、MDシステムを導入すれば、敵はそれを回避できるミサイルを開発するに決まっていると警告してきた。

そんな軍拡競争を回避するため、1972年、アメリカとソ連は弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約に調印したが、アメリカは2001年に一方的に脱退を通告。以後、年間約100億ドルを投じてMDシステムを開発してきた。そのほとんどが北朝鮮やイランなどの脅威を想定しており、ロシアや中国の大規模攻撃に対処する能力は皆無に近い。

奇妙に思えるだろうが、核抑止論とはそういうもので、強力な防衛策は強力な攻撃策を引き起こし得る。

問題は、A国がB国に核の先制攻撃を仕掛け、B国が残った兵器で報復した場合、A国がMDシステムで迎撃する可能性だ。このシナリオでは、MDシステムは核攻撃への敵国の対応能力を奪うか大幅に低下させる(現に50~60年代、米軍のミサイル防衛の主眼は先制攻撃能力の拡張にあった)。

中国は極超音速ミサイルの開発のほか、約200カ所でICBMの地下格納庫とみられる施設も建設中だ。いずれもアメリカのMDシステムを無力化し、自国の核抑止力を維持するのが狙いだろう。

アメリカは奇妙な核抑止論につかっている限り、「中国が対抗措置を誇示するたび対処せざるを得ない」と、アメリカのある国防政策専門家は指摘する。中国は邪悪なゲームをしているのかもしれない。実用化する気のない「兵器」でアメリカに圧力をかけ、それを抑止する新技術に巨費を投じさせようというのだ。

挑発に乗る者もいる。米下院軍事委員会のマイク・ギャラガー議員(共和党)は、中国のミサイル発射実験を「行動するきっかけ」にすべきだと指摘。「中国軍がわが国のMDを弱体化させ、アメリカの国土を脅かす力を持つ可能性は増している」と警告した。

ギャラガーをはじめ大勢が、アメリカには国土を防衛できるMDシステムがあると信じているようだ。一方、1945年からの核の時代以降、少なくとも60年代前半からの核ミサイルの時代以降、アメリカばかりか世界中の国土が破壊の脅威にさらされてきた事実は見て見ぬふりだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中外相が対面で初会談、「相違点の管理」で合意 協

ビジネス

ドイツ議会、540億ドル規模の企業減税可決 経済立

ワールド

ガザの援助拠点・支援隊列ルートで計798人殺害、国

ビジネス

独VW、中国合弁工場閉鎖へ 生産すでに停止=独紙
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 7
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 8
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 9
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 10
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中