最新記事

中国

中台TPP加盟申請は世界情勢の分岐点──日本は選択を誤るな

2021年9月25日(土)16時30分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

これらを頭に入れた上で現在のTPP加盟国のマップを以下に示す。

図表3:現時点におけるTPP加盟国(青)
endo20210925121003.jpg

出典:パブリック・ドメインの世界地図に基づいて筆者が作成

図表1と図表2をご覧いただくと、ユーラシア大陸のほとんどを中国を中心として赤く染めつつあり、そこに図表3を重ねると、もし中国がアメリカより先にTPPに加盟すると、アメリカを除く世界諸国をほとんど中国の勢力下に置いたような勢力図が出来上がっていくことが一目瞭然だろう。

AUKUS(オーカス)の要因は小さい

中国がこのタイミングでTPP加盟申請を行ったことに関して、一部に「アメリカ・イギリス・オーストラリア」による新たな安全保障協力の枠組み「AUKUS(オーカス)」を挙げる論調もあるが、中国から見ればその要因は非常に小さいと見ていいだろう。

なぜならオーストラリアとフランスの間で5年前から契約されていた7兆円にのぼる潜水艦建造の契約を、オーストラリアはほぼ一方的に破棄してアメリカに乗り換えたからだ。激怒したフランスはバイデン大統領を「同盟国を容易に見捨てる裏切り者」として糾弾し、同情したEUもフランス側に立ってアメリカを非難している。

中国から見れば「西側諸国の内輪もめ」ということになり、習近平の高笑いが止まらない。新華社や環球時報などの報道から、その「喜び」はにじみ出ている。新華網や中央テレビ局CCTVあるいは環球網など、いたるところ喜びに溢れている。

中国がTPP加盟国の同意を得られる可能性は低い

但し、中国が易々(やすやす)とTPPに加盟できる可能性は低い。

もちろん知的財産権や国有企業のあり方などにおいて中国には問題があるが、それ以上に、関税で喧嘩中のオーストラリアがあり、また「アメリカ・メキシコ・カナダ協定(前身は北米自由貿易協定。トランプ前大統領が2017年から2018年にかけて再交渉し、2020年7月1日に発効)」により、カナダとメキシコが制約を受けているからだ。TPPの加盟国であるカナダとメキシコはアメリカの同意がないと、アメリカが「非市場経済国」とみなしているような国(=中国)と自由貿易協定を結んではならないことになっている。したがって中国のTPP加盟を認めたらカナダやメキシコが「アメリカ・メキシコ・カナダ協定」から脱却するか、あるいはアメリカが脱退するかという事態に及ぶかもしれない。アメリカとの貿易に依存しているカナダやメキシコは、そのような危険な道を選んだりはしないだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減

ビジネス

米KKRの1─3月期、20%増益 手数料収入が堅調
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中