最新記事

ミャンマー

ミャンマーに迫る内戦危機、民主派の武装蜂起は「墓穴を掘る」結果になる可能性

Myanmar’s Hard Truth

2021年9月15日(水)18時34分
セバスチャン・ストランジオ
ミャンマー民主化デモ

NUGへの連帯を示す市民のデモ(21年4月) REUTERS/Stringer

<国民統一政府が宣言した「自衛の戦争」は、国軍の圧倒的な反撃と国土の荒廃を招く>

ミャンマーに不穏な空気が漂っている。今年2月の軍事クーデターに反発して、民主派が組織した国民統一政府(NUG)が9月7日、全国的な蜂起を呼び掛けたのだ。国際社会は冷静さを保つよう呼び掛けているが、血みどろの内戦が近づいている。

NUGのドゥワラシラー大統領代行は7日、「軍のテロリスト」を追放して「人民を自衛する戦争」を宣言。多数の少数民族組織に、軍を「直ちに攻撃する」よう呼び掛ける一方で、NUGの軍部に当たる国民防衛隊には、各地の「軍事政権やその施設をターゲットにせよ」と具体的な指令を出した。

武装蜂起の呼び掛けは、ソーシャルメディアでは熱狂的に支持されたが、国際機関や外国政府は狼狽している。元国連調査団員らが組織するミャンマー特別諮問評議会(SAC-M)は8日、「7カ月にわたる軍事政権の暴力と国際社会の無策に、NUGと人民がいら立ちを募らせている」ことに理解を示しつつ、事態のエスカレートは「残念だ」と声明を出した。

「暴力はミャンマーの人々の苦しみの原因であって、解決策ではない」と、SAC-Mのクリストファー・シドッティは述べている。「NUGの気持ちは分かるが、その決断が引き起こす事態を、われわれは憂慮している」

米国務省のネッド・プライス報道官やイギリスのピート・ボウルズ駐ミャンマー大使、インドネシア外務省のテウク・ファイザシャー報道官らも、民主派の「自衛のための戦争」に理解を示しつつ、円滑な人道援助のために双方に平和を呼び掛けた。

だが、ミャンマーの民主派が武力闘争の道を選ぶことは、おそらく不可避だったし、多くの意味で、何カ月も続いてきた現実を正式に宣言したにすぎない。なにしろ軍事政権は、民主派との平和的な対話に一切関心を示さず、NUGと国民防衛隊を「テロ組織」と決め付け、民間人を含む1000人以上を殺してきた。

これに対して国際社会は、軍事政権を非難するだけで、それ以上のことをする意欲も能力も示してこなかった。

つまり民主派にとって、本格的な武力闘争は、残された唯一の選択肢だったと言える。「こちらを殺したり、ひざまずかせたりしようとする相手と、どうやって対話をしろというのか。対等な話し合いなど不可能だ」と、ある活動家はツイートした。「歴史を見れば、交渉の試みに限界があることは明らかだ」

だが、民主派が武力闘争を正式な戦略として打ち出したことは、倫理的な問題や現実的な問題を生じさせている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏、トランプ氏との会談「前向き」 防空

ワールド

米、ガザ停戦維持に外交強化 副大統領21日にイスラ

ワールド

米連邦高裁、ポートランドへの州兵派遣認める判断 ト

ワールド

高市政権きょう発足へ、初の女性宰相 維新と連立
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    米軍、B-1B爆撃機4機を日本に展開──中国・ロシア・北…
  • 9
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 10
    若者は「プーチンの死」を願う?...「白鳥よ踊れ」ロ…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 7
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 8
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 9
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 10
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中