最新記事

ミャンマー

ミャンマーに迫る内戦危機、民主派の武装蜂起は「墓穴を掘る」結果になる可能性

Myanmar’s Hard Truth

2021年9月15日(水)18時34分
セバスチャン・ストランジオ

NUGは5月に国民防衛隊を設置したとき、「市民を脅し、標的にし、攻撃してはならない」し、市民がいる場所を標的にしてはならないという行動規範を示した。これは、無差別的な残虐行為を繰り返す国軍とは違うことを明確にするとともに、こうした非道の責任が問われることがなかったミャンマーの文化を正そうという意思の表れだ。

だが、戦闘が激化すれば、正義と不正義を分ける線は曖昧になりかねない。NUGの宣戦布告は、軍当局者や、民間人を含む軍事政権協力者の殺害を暗に奨励していると受け止められても無理はない。

また、軍事クーデター以来、ミャンマーでは無数の民兵組織が誕生してきたが、彼らは国民防衛隊の指揮下にあるわけではない。つまり、NUGが示した行動規範を民兵たちが守る保証は全くない。

さらに9日には、別の倫理的な問題も浮上した。東南アジア諸国のニュースを配信するウェブメディアのニュー・ナラティフによると、NUGの重要メンバーであるササ報道官が、アメリカの銃愛好者によるウェビナーで、手製爆弾の作り方を学んでいたというのだ。

ミャンマー系アメリカ人ジャーナリストのエイミンタンが執筆した記事によると、ササらミャンマーの民主活動家たちは6月、マーク・アンドレ・ラキューなるアメリカ人のオンライン講座を受講して、初歩的なパイプ爆弾や迫撃弾の作り方を学んだという。どちらも市民を巻き添えにしかねない無差別的兵器だ。

「NUGが(ミャンマーの正式な政府として)民主的な正当性を獲得しようとするなか、軍事政権に対する『人民を自衛する戦争』が、どのように位置付けられるのか疑問が生じる」と、エイミンタンは結論付けている。

ただし武力闘争を実践しようとする民主派は少数派で、大多数は大規模なストなど非暴力的な抵抗運動を展開しているという見方もある。

武力衝突のエスカレートは、NUGの政治的選択肢を狭めることにもなる。NUGはミャンマー政府として国際的な承認を得たいと考えているが、今回の宣戦布告で、その実現性は著しく小さくなった。

それに、いかに大義があっても、その戦いが成功する保証はない。にわかづくりの国民防衛隊はもとより、少数民族の武装組織はそれぞれ目標や利害が異なり、国軍に対して足並みのそろった戦いを展開できるかは分からない。

国軍がNUGの宣戦布告にひるむとも思えない。むしろ圧倒的な武力で反撃してくる可能性が高い。そうなれば、「もっと激しく長期的な内戦となり、大虐殺によって相手を消耗させる戦い方がまかり通るようになるだろう」と、長年ミャンマーの人権問題に取り組んできたデービッド・スコット・マティソンは語る。

その消耗戦によって残るのは、荒廃だけだ。

©2021 The Diplomat

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米EV税控除、一部重要鉱物要件の導入2年延期

ワールド

S&P、トルコの格付け「B+」に引き上げ 政策の連

ビジネス

ドットチャート改善必要、市場との対話に不十分=シカ

ビジネス

NY連銀総裁、2%物価目標「極めて重要」 サマーズ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 5

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 6

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 10

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中