最新記事
宇宙ステーション

国際宇宙ステーション、ロシア区画から火災報 万一出火なら対処法は?

2021年9月14日(火)14時45分
青葉やまと

手動での消火活動、最悪のシナリオでは退避も想定

さらに深刻なレベルの火災に発展した場合、乗組員たちは酸素マスクを装着し、二酸化炭素消火器や水ベースのスプリンクラー、泡沫消火器など、各種消火設備を投入して消火活動にあたる。ラック内が火元の場合、各ラックにはノズルの挿入口が設けられており、これを通じて消火剤を内部に噴霧できるつくりになっている。

万一、懸命の消火活動が実を結ばなかった場合には、最終手段としてクルーたちはISSを放棄することになる。イギリスの宇宙飛行士であるティム・ピークは2016年、自身のフェイスブックにおいて、その仔細を明かしている。火災が制御不能なレベルに達した場合、クルーはISSにドッキングしているソユーズ宇宙船に退避し、ISSからの離脱に移るのだという。

ピーク宇宙飛行士は、「面白いことに、このソユーズには消火設備がいっさいないのです」と語っている。万一ソユーズにも延焼した場合には、乗員全員が宇宙服のヘルメットを装着し、ソユーズの船内を減圧する。酸素を船外へ追い出すことで燃えにくくするという、原始的ながらも宇宙空間の利点を生かした手法が用いられる。

無重力空間で異なる火災の振る舞い

NASAはそもそも無重力空間での火災について、通常とは振る舞いが異なると説明している。地上の場合、炎は対流によって燃焼をつづける。火は周囲の酸素の助けを借りて燃焼し、熱せられた空気が上方へと逃げる対流現象により、炎の下側から新たな酸素を含む空気が供給される。

ところが、無重力空間では対流が生じないため、理論的にISS内は炎が燃焼しづらい環境にある。ただし現実には、ISS内部にも空気の流れは存在するようだ。宇宙飛行士が呼吸を続けるには、常に新鮮な空気のフローを確保し、口元に二酸化炭素が滞留しないことが重要だ。このため換気システムが船内の給気口から風を常時送り出しており、これが結果的に火災の延焼を助けてしまう。このため、やはり火災を想定した火災報知器の設置が必要となる。

地上と異なるのはその設置場所で、ISSでは換気システムの内部に煙探知器を設けている。無重力下では煙が上方に向かうことがないため、天井付近に設置してもあまり意味がないためだ。室内の空気を回収する換気システムの経路上に煙探知器を設置することで、検知の効果を高めている。なお、誤検知を防ぐために掃除機を使う際には報知器をオフにするなど、運用にあたっては宇宙ステーション独自の気配りが求められるようだ。

トラブル続きのロシアモジュール

今回の一件では煙と異臭が確認されたのみだが、ロシア製モジュールをめぐってはトラブルが続いている。今年7月にはISSとドッキングした実験モジュール「ナウカ」が予定にないスラスター噴射を行い、一時ISSが制御不能に陥る事態が起きていた。船体が540度スピンし、アンテナの姿勢を保てなくなったことから地上との交信も一時断絶した。

昨年10月には、今回発煙が起きたのと同じ「ズヴェズダ」の主要区画が原因とみられる空気漏れが起きており、ISS全体の室温低下を招いた。2018年にはロシア製「ソユーズ」でも地上での行程で発生したとみられる穴が見つかるなど、老朽化が問題となっている。

ISSとは別にロシアが独自に運営していたミール宇宙ステーションでも1998年、酸素キャニスターから出火した。キャニスターは酸素キャンドルとも呼ばれ、燃焼することで新たな酸素を放出するもので、予備の酸素供給源として搭載されている。火元の性質上、鎮火は難航し、ミール全体に黒煙が充満する騒動となった。

ロシア側は現ISSモジュールの老朽化を認め、新ステーションの建造が必要だとの認識を示している。ISSのモジュールとなるか独自計画となるかは結論が出ていない。2028年に迎える既存モジュールの運用終了をもって、ロシアがISSから撤退する可能性も指摘されている。今回の火災報は大事に至らなかったものの、相次ぐトラブルを前に根本的な対処が急務となっている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国首相、フォーラムで一段の経済開放約束 日本企業

ワールド

G7、エネ供給支援へ必要な措置講じる用意 外相声明

ワールド

トランプ氏、米空港にICE捜査官派遣と警告 予算巡

ワールド

トランプ氏、イランに48時間以内のホルムズ開放求め
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公開...母としての素顔に反響
  • 3
    メーガン妃、親友称賛の投稿が波紋...チャリティーの場でにじんだ「私的発信」
  • 4
    BTSカムバック公演で光化門に26万人、ソウル中心部の…
  • 5
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 6
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラ…
  • 7
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 8
    「日本人のほうが民度が低い」を招いてしまった渋谷…
  • 9
    まずサイバー軍が防空網をたたく
  • 10
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 3
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え時の装いが話題――「ファッション外交」に注目
  • 4
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 5
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 6
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 7
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 8
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 9
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラ…
  • 10
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中