最新記事

AUKUS

AUKUSを批判する中国もフランスも間違っている──エバンズ豪元外相

The Real Risks of the Deal

2021年9月30日(木)08時33分
ギャレス・エバンズ(オーストラリア元外相)
オーストラリア潜水艦

オーストラリアは通常型潜水艦と決別するのか(豪海軍の「シーアン」) LSIS LEO BAUMGARTNERーAUSTRALIAN DEFENCE FORCE

<原潜配備に伴う核拡散への懸念、中国の反応──新たな米英豪防衛体制の真意は誤解されている>

米英豪が情報・技術を共有する新たな安全保障の枠組み、AUKUS(オーカス)の創設を受け、世界規模で大げさな言いぶりが飛び交っている。

特に国内外で大騒動になっているのが、潜水艦をめぐる決定だ。オーストラリアはフランスと結んだ通常動力型潜水艦12隻の建造契約を白紙撤回し、アメリカの技術提供の下で最低8隻の原子力潜水艦を建造するという。

オーストラリア緑の党は、原子力潜水艦を「浮かぶチェルノブイリ」と危険視。中国外務省は「地域の平和と安定を損ない、軍拡競争をあおり、核拡散防止条約(NPT)を弱体化させる」と表明し、イギリスとアングロ圏の「裏切り」に怒るフランスは駐米大使と駐豪大使を召還した。

今こそ気を落ち着かせて、冷静な目で見るべきだ。AUKUSはどこが正当化でき、どこが問題なのか。さらなる説明が必要な点はどこか。

AUKUSには、技術的リスクと政治的リスクに絡む問題が存在する。重要なのは2つを混同しないことだ。

原子力潜水艦には大きな利点が

技術的に見れば、オーストラリアの目的に最も適しているのは原子力潜水艦だとの主張には強い説得力がある。

原子力潜水艦は通常型よりはるかに高速に移動でき、基本的に乗組員が身体的・精神的限界を迎えるまで、ずっと水中にとどまることが可能だ。最新技術のおかげで、騒音がより少ないとも言われる。

一方、オーストラリアにとっては、より小型で低騒音、かつ機動性の高い通常動力型潜水艦を大幅増備するほうが総合的な利益になるとの意見もある。この見方は専門家の間では少数派だが、それでも原子力潜水艦の配備に踏み切る前に徹底検証すべきだろう。

オーストラリアの視点に立てば、北に位置する潜在的海洋紛争の現場への長い移動距離を考えると、原子力潜水艦には大きな利点がある。

ある試算では、オーストラリア海軍が保有するコリンズ級潜水艦(連続潜航日数は最長約50日間)が西部の都市パースから南シナ海に向かった場合、現地にとどまれる日数はわずか11日。原子力潜水艦なら、はるかに長い期間ミッションを継続できる。

原子力潜水艦には核拡散と安全面のリスクがあるとの声も上がるが、とんでもない誇張だ。オーストラリア世論は核武装を支持せず、全ての国内政党がその可能性を除外している。核分裂性物質の生産についても同じことだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米の日鉄投資計画承認、日米の経済関係強化につながる

ワールド

米空母、南シナ海から西進 中東情勢緊迫化

ビジネス

ECB、政策の柔軟性維持すべき 不確実性高い=独連

ワールド

韓国、対米通商交渉で作業部会立ち上げ 戦略立案へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 7
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中