最新記事

ワクチン

ワクチンのブースター接種はまだ検討しなくてよい──米感染症専門家

Do We Need Booster Shots?

2021年8月26日(木)18時03分
ウィリアム・ペトリ(米バージニア大学医学部教授)
ワクチン

免疫力は時間とともに低下するため、多くのワクチンで追加接種が行われる ANDRIY ONUFRIYENKOーMOMENT/GETTY IMAGES

<新型コロナウイルスワクチン3回目の追加接種は、予防効果を高めると期待されているが、今はまだ推奨されていない>

新型コロナウイルスの変異株拡大に伴い、ワクチン接種を済ませた人たちの間にも不安が広がっている。新型コロナウイルスワクチンの有効性を高めるとされる「3回目」のブースターショット(追加接種)について、微生物学・感染症の専門家である筆者が解説する。

■ブースターショットとは?

ある病気に対するワクチンの予防効果を維持するために行う追加のワクチン接種のこと。免疫力は時間とともに低下するので、多くのワクチンで効果を強めるために行われる。例えば、インフルエンザは毎年、ジフテリアと破傷風のワクチンは10年ごとにブースターショットが必要になる。

ブースターは多くの場合、最初のワクチンと同じものだ。ただし、新たな変異株に対する防御力を高めるため、改良されたものを使うこともある。

■新型コロナワクチンのブースターショットは必要か

今はまだ必要ない。2021年7月初めの時点で、米疾病対策センター(CDC)、食品医薬品局(FDA)、CDCの予防接種諮問委員会(ACIP)を含む米政府当局は、ブースターを推奨していない。

■推奨されていない理由

ワクチンによる免疫は永遠には続かないかもしれないが、ブースターがいつ必要になるかははっきりしない。

幸い、現在使用が許可されている新型コロナワクチンは、いずれもコロナウイルスに対する強固な「免疫記憶」を誘導する。ワクチンは免疫系の「メモリーB細胞」に働き掛け、ウイルスに出合ったときに抗体を作るよう指示する。ファイザー製ワクチンを接種した人のリンパ節では、接種後少なくとも12週間、高レベルのメモリーB細胞が検出されている。

さらに使用許可済みのワクチンは、コロナウイルスの新たな変異株に対しても予防効果を発揮することが研究で示されている。

ある研究では、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)製ワクチンは接種後14日目に73%、28日目に82%の有効性を示し、ベータ株による重症化を防ぐことができた。また、査読前の予備的研究では、ファイザー製ワクチンはデルタ株に対して88%の有効性があるとされている。

コロナウイルスに対する長期的な抗体反応を支えるもう1つの柱は、骨髄に存在する形質芽細胞だ。この細胞は継続的に抗体を産生し、その活動をブースター抜きでも維持できる。

幸い、新型コロナワクチンを接種した人の骨髄では、形質芽細胞が最長11カ月間検出されている。長期的な免疫記憶が一定程度保持されている証拠だ。

■ブースターが必要かどうかの判断

ワクチン接種済みの人に感染が広がるかどうかを確認する必要がある。ワクチンが誘導する免疫の強さを測定する最良の方法は、まだ確立されていない。新型コロナワクチンは極めて有効性が高いため、データとして使える失敗例があまり多くない。

最も有望なのは、ワクチンが免疫系に作るよう働き掛ける特定の抗体だ。これらの抗体は、コロナウイルスが細胞に侵入し、感染するのを可能にするスパイクタンパク質を認識する。

抗スパイク抗体の重要性を裏付ける証拠としては、J&Jやアストラゼネカなどのアデノウイルスベクターワクチンよりもやや効果が高いファイザーやモデルナなどのmRNAワクチンのほうが、血液中の抗体レベルが高いとする研究がある。また、アストラゼネカ製のワクチン接種後に新型コロナに感染した人は、抗スパイク抗体レベルが低かったとする査読前の予備的研究もある。

ブースターショットの必要性を判断する基準となるもう1つの兆候は、ワクチン接種済みの高齢者の「ブレイクスルー感染(ワクチン接種後のコロナ感染)」だ。80歳以上の高齢者はワクチン接種後に作られる抗体の量が少ないため、一般の人よりも早く免疫力が低下する可能性がある。

■免疫不全の場合

免疫不全の人にはブースターショットが必要な場合がある。ある研究によれば、40人の腎移植患者のうち39人、透析患者の3分の1はワクチン接種後に抗体ができなかった。

別の研究では、免疫抑制剤を服用しているリウマチ性疾患や筋骨格系疾患の患者20人で抗体が検出されなかった。どちらの研究も必要回数のワクチン接種完了後に行われた。

これらのケースでは、ブースターの有効性が示されている。ある研究によれば、ファイザーやモデルナのワクチンを2回接種しても最適な反応が得られなかった固形臓器移植患者の3分の1が、3回目の接種で抗体反応が得られた。

免疫力が低下している人は、ワクチンが体内でうまく免疫を作れるかどうか不安に思うかもしれない。ある論文査読前の予備的研究によると、ワクチンが産生を誘導する抗スパイク抗体を対象とするテストが、ワクチンが効いたかどうかの判定に役立つ可能性がある。ただし、今のところFDAは免疫力を評価するための抗体検査を推奨していない。

■ブースターは最初の接種と同じワクチンである必要があるか

最近の研究では、ファイザーやモデルナのようなmRNAワクチンと、アストラゼネカのようなアデノウイルスベクターワクチンを組み合わせても、同等の結果が得られることが分かっている。

The Conversation

William Petri, Professor of Medicine, University of Virginia

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

ニューズウィーク日本版 英語で学ぶ国際ニュース超入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年5月6日/13日号(4月30日発売)は「英語で学ぶ 国際ニュース超入門」特集。トランプ2.0/関税大戦争/ウクライナ和平/中国・台湾有事/北朝鮮/韓国新大統領……etc.

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減

ビジネス

米KKRの1─3月期、20%増益 手数料収入が堅調
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中