最新記事

アフガニスタン情勢

アフガニスタン政府軍はなぜあんなに弱かったのか、米政府はこの浪費を説明せよ

Taliban Didn't Win in Afghanistan, the Defense Contractors Did

2021年8月25日(水)13時42分
サキブ・クレシ(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス客員研究員)
カブール陥落前のアフガニスタン政府軍兵士

首都カブール近郊の検問所で機関銃を構えるアフガニスタン政府軍の兵士。4カ月後、カブールはあっさり陥落した Mohammad Ismail-REUTERS  

<2兆ドルも費やして戦果はゼロ。アフガン軍が弱い金食い虫だった責任の一端は、アメリカが大々的に戦争を委託した民間軍事会社のせいもあるのではないか>

カブール陥落以後の1週間、これほどアフガニスタンについての情報があふれたことはないだろう。だが、アフガニスタンにおけるアメリカの戦争が、不透明で説明責任とは無縁の民間軍事会社に大々的に委託されていた事実については、ほとんど触れられることがない。

民主的なアフガニスタン建設のためとされた戦争は、これ以上なく非民主的なやり方で遂行されていたのだ。

いかにして、そしていかなる理由から、これほど重要な戦争の大きな部分が民間軍事会社に委ねられたのか。そうしたやり方はアフガニスタン政府軍や政府の瓦解の原因とも関連しているのか。アメリカはこれらの点にきちんと向き合う必要がある。

これは、世界最強の国家が外交政策のかなりの部分を納税者に対する説明責任をもたない民間企業に委ねることの是非をめぐる議論の入り口になる。実情が明らかになれば多くのアメリカ人が怒りを覚えるはずだ。

アメリカの金はいかに浪費されたか

実際何が起きたのか、どれほどの国費が無駄遣いされたのか、ジャーナリストは金の流れを追ってその本分を果たすべきだ。責任追及もしないまま、この問題を終わらせてはならない。

アフガニスタンの国土は険しく山がちだ。それもこの国が「帝国の墓場」と呼ばれるゆえんだろう。緑豊かな森林は国土のたった1%に過ぎない。アフガニスタンのある優秀な役人が、緑色の迷彩服を兵士に着せるのはばかげていると判断したのもそのためだ。にも関わらず、そんな役に立たない迷彩服のために、アメリカは総額2800万ドル(米国民1人あたり25セント)もの金を払った。

もっとも、政府軍がタリバンと戦いもせずあっという間に姿を消したところを見ると、この迷彩服も多少は役に立ったのかも知れないが。

調べれば調べるほど、驚くような金額と汚職の数々が白日の下にさらされるだろう。アフガニスタン復興担当特別査察官事務所(SIGAR)は2018年、アメリカの国費約150億ドルが無駄遣いされたり不正流用されたと明らかにした。また08年以降、米政府はアフガニスタンの建物や自動車のために80億ドルを費やしてきたが、大半は破壊されたり放置されたりして、まともに使われているのは10%に満たなかったという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ米政権、一部帰化者の市民権剥奪強化へ=報道

ワールド

豪ボンダイビーチ銃撃、容疑者親子の軍事訓練示す証拠

ビジネス

英BP、豪ウッドサイドCEOを次期トップに任命 現

ワールド

アルゼンチンの長期外貨建て格付け「CCC+」に引き
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 9
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中