最新記事

ドキュメンタリー

世界に愛された「名シェフ」アンソニー・ボーデインの足跡を追って見えたこと

Tracking Bourdain’s Journey

2021年8月20日(金)18時20分
キャスリーン・レリハン
モーガン・ネビル監督

ボーデインのように先入観なしに世界を見てほしいと語るネビル監督 ROBBY KLEIN/GETTY IMAGES

<食と人間への尽きせぬ興味を相棒に旅したボーデインの素顔に迫るドキュメンタリー『ロードランナー』製作秘話>

探検家にしてシェフ、時代の語り部、世界各地の文化を紹介する当代きってのフードジャーナリスト。そんな肩書を持つ異才アンソニー・ボーデインが突然この世を去って3年余りになる。

マンハッタンの「ブラッセリー・レアール」の総料理長を務める傍ら、ベストセラー作家として活躍し、エミー賞に輝いたテレビ番組『アンソニー世界を駆ける』の案内役も務めたボーデイン。

彼は世界各地の人々の暮らしぶりを新鮮な語り口で紹介し、異文化圏の見知らぬ人とでも、食事を共にすればたちまち対等な絆が生まれることを、身をもって示した。

その人となりは多くの人々に愛され、彼が自ら命を絶ったとの悲報を世界は沈痛な思いで受け止めた。ドキュメンタリー映画『ロードランナー』はボーデインの稀有な軌跡をたどった作品だ。監督はアカデミー長編ドキュメンタリー映画賞に輝いた『バックコーラスの歌姫たち』や『ミスター・ロジャースのご近所さんになろう』で知られるモーガン・ネビル。

ボーデインの知られざる一面に迫ったこの作品について、本誌キャスリーン・レリハンがネビル監督に話を聞いた。

――あなたは生前のボーデインと会っていないが?

(同じく映画で追った司会者)ミスター・ロジャースとも会ったことはないが、テレビを見ているうちに知り合いのように思えた。2人とも自然体で視聴者に語り掛ける。

トニー(ボーデインの愛称)は複雑な人間だが、だからこそ人々に愛されたのだろう。欠点に目をつぶるのではなく、欠点があるからこそ、誰もが彼に親しみを感じた。(レストラン業界の舞台裏を描いた著書)『キッチン・コンフィデンシャル』(邦訳・土曜社)を世に出して以来、彼は常に自分をさらけ出し、自虐的なジョークを飛ばし、ずばずば本音を語っていた。

――ドキュメンタリーを撮っているうちに気付いたボーデインの意外な一面は?

物おじしないように見えるが、とてもシャイなところがある。それと、常々自殺願望をジョークの種にしていたこと。無意識に自分を守ろうとする屈折した防衛機制だろう。

――編集でカットしたが、本当は残したかった部分は?

些細なことだが、彼はツイッターの偽アカウントをいくつも開設していた。

――え、何のために?

悪ふざけだ。偽アカウントで自分を批判していた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米耐久財コア受注、3月は0.2%増 第1四半期の設

ワールド

ロシア経済、悲観シナリオでは失速・ルーブル急落も=

ビジネス

ボーイング、7四半期ぶり減収 737事故の影響重し

ワールド

バイデン氏、ウクライナ支援法案に署名 数時間以内に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 2

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 3

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」の理由...関係者も見落とした「冷徹な市場のルール」

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 6

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    コロナ禍と東京五輪を挟んだ6年ぶりの訪問で、「新し…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中