最新記事

ワクチン

ファイザーでもモデルナでも、最も早く受けられるのがベストなワクチンだ

WHICH COVID VACCINE IS BEST?

2021年8月5日(木)17時18分
ウェンシー・リー、ヒョンシー・タン(共に豪ピーター・ドハーティ感染免疫研究所博士研究員)
ワクチン(イラスト)

ILLUSTRATION BY SMARTBOY10/ISTOCK

<承認済みのワクチンはどれも有効。どれを接種するかで迷うのではなく、とにかく早く受けられるものを受けるのがベストだ>

新型コロナウイルスのワクチン接種が進むにつれ、「ベストなワクチンはどれ?」と聞かれるようになった。答えたいのはやまやまだが、答えはそう単純ではない。

まず最善の基準は何か、だ。重症化を防ぐ効果か、その人の住む地域に広がっている変異株への有効性か、その人の年齢に合ったものか。

さらに、百歩譲って最善のワクチンが分かったとして、それを受けられるとは限らない。各種ワクチンの供給体制が整うまで、世界の圧倒的多数の人々は取りあえず接種を受けられるワクチンを選ぶしかない。端的に言えば、いま接種できるワクチンが「最善の選択」なのだ。

そう言われてもモヤモヤが残る? ならば説明しよう。ワクチンの効果はなぜ一概には比較できないのか。

どのワクチンが最善かは臨床試験のデータを見れば分かりそうなものだ。世界中の規制当局が認可の基準としている大規模な第3相試験(フェーズ3)の結果を見れば、一目瞭然だと思われるかもしれない。

こうした試験は通常何万人もの被験者を対象に実施され、ワクチンを投与された人たちとプラセボ(偽薬)を投与された対照群の感染率を比較する。それにより有効性があるか、つまり厳密に設定された条件下でワクチン投与群と対照群に有意な差があるかどうかが分かる。

臨床試験で確認された有効性はワクチンによって異なる。ファイザー製のワクチンは発症予防で95%の有効性が報告されているが、アストラゼネカ製ワクチンの有効性は投与量により62~90%と言われている。

とはいえフェーズ3の試験は実施された場所も時期も異なるため、単純なデータ比較はできない。感染拡大の状況や当局の対策も、どんな変異株がどの程度流行しているかも地域によって異なるし、被験者の年齢や民族構成、基礎疾患のある人がどの程度含まれるかも異なるからだ。

「直接比較試験」という方法を取れば、異なるワクチンの有効性を比較できる。これは同じ時期に同じ場所で行う試験で、あるワクチンを受けた集団と別のワクチンを受けた集団の発症率を比較する。2つの集団の年齢や民族構成などの条件が同じか調整済みで発症率に有意な差があれば、その差は2種類のワクチンの有効性の違いと見なしていい。

別のタイプを追加で打つ手も

現在イギリスでアストラゼネカ製とフランスのバイオ企業バルネバが開発したワクチンの有効性を比べる直接比較試験が行われていて、年内にはフェーズ3が完了する予定だ。

こうした試験の結果を待たずとも、取りあえず今の段階でも一般の人たちに各種ワクチンがどの程度効くかは投与実績からかなり明確に分かる。この場合、分かるのは有効性ではなく効果だ。

例えばイギリスではファイザーとアストラゼネカのワクチンの接種が進んだ時点で、どちらも同じように効果があることが分かった。どちらも1回の接種を受けただけで、発症率、入院率、死亡率を抑える効果が認められた。臨床試験で確認された有効性はファイザーのほうが高いが、それだけではファイザーが「ベスト」とは言えないのだ。

さらに、推奨された2回の接種を終えても「これで安心」とはならない。接種後一定期間を過ぎれば抗体が減るため、定期的なブースターショット(追加接種)が必要になる。

その際、前回受けたワクチンと違うワクチンを受けてもいいのか。スペインで行われた調査で、異なるワクチンの接種は安全なばかりか、非常に強力な効果が期待できることが分かった。長期にわたって新型コロナに対する免疫を維持するには、異なるワクチンの追加接種が現実的な戦略になるかもしれない。

多様な変異株が広がり、既存のワクチンの効果を下げる変異株も出現しているが、それでも全く効かないわけではない。モデルナなど開発各社は承認済みワクチンの改良を急いでいる。2回の接種を終えた人も変異株対応のワクチンを追加接種すればさらに強い効果が期待できる。

どうせ接種を受けるなら、ベストな選択をしたいと思うのが人情だが、ベストな選択はいま受けられるものを受けること。それにより感染拡大を防げ、地域や家庭内の弱い人たちを守れるし、あなた自身の重症化リスクも大幅に減らせる。

誰かが1回接種を受けるたびに、それは世界が正常な状態に戻るための、ささやかだが大きな一歩となる。

The Conversation

Wen Shi Lee, Postdoctoral researcher, The Peter Doherty Institute for Infection and Immunity and Hyon Xhi Tan, Postdoctoral researcher, The Peter Doherty Institute for Infection and Immunity

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

ニューズウィーク日本版 ガザの叫びを聞け
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月2日号(11月26日発売)は「ガザの叫びを聞け」特集。「天井なき監獄」を生きる若者たちがつづった10年の記録[PLUS]強硬中国のトリセツ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

香港の大規模住宅火災、ほぼ鎮圧 依然多くの不明者

ビジネス

英財務相、増税巡る批判に反論 野党は福祉支出拡大を

ビジネス

中国の安踏体育と李寧、プーマ買収検討 合意困難か=

ビジネス

ユーロ圏10月銀行融資、企業向けは伸び横ばい 家計
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 8
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中