最新記事

米経済

インフレへの「軽視」と「慢心」こそが70年代型インフレ危機の再来を招く

70s-Style Inflation Redux?

2021年8月3日(火)18時51分
マイケル・ハーシュ(フォーリン・ポリシー誌上級特派員)
バイデン米大統領

インフレ懸念が高まるがバイデンは物価上昇は一時的なものだと考えている ANDREW KELLY-REUTERS

<インフレ懸念が高まるなかで指摘される暗黒のニクソン政権時代との共通点、バイデンの分析と対応は果たして正しいのか>

アメリカの大統領はみんな、「リチャード・ニクソンに似てきた」と言われるのを嫌う。しかし今、ジョー・バイデン大統領が第37代大統領ニクソンのようになりはしないかという懸念を、多くの専門家が抱いている。

ウォーターゲート事件並みのスキャンダルを起こすという心配ではない。ニクソンが1970年代に引き起こしたような壊滅的なインフレの種をまいているのではないかというのだ。

既にインフレはエコノミストの予想以上に進んでおり、ニクソン政権時代との類似点を指摘する声もある。例えば国防費と巨額の社会事業費による財政赤字の拡大、FRB(米連邦準備理事会)が金融緩和を楽観視している可能性、「ショック」(当時は石油ショック、現在は新型コロナウイルス対策が目的の規制)によって供給が減少した後の需要の回復などだ。

6月の米消費者物価指数は前年同月比で5.4%上昇し、13年ぶりの大幅な伸びとなった。この数字が新たなインフレ懸念をかき立てたため、バイデンは先週の記者会見で「状況を注視する」と語った。

ホワイトハウスとジェローム・パウエルFRB議長は、物価上昇は自然に落ち着くという立場だ。だがエール大学経営大学院のジェフリー・ガーテン教授は、問題はバイデンがニクソンのようにインフレが起きる危険性を軽視していないかどうかだと指摘する。

72年に再選を目指したニクソンは、インフレより失業のほうが大きな問題だという「政治的」な判断を下した。2024年に再選を狙うバイデンも、同様の判断を下さないだろうか。「バイデン政権も、分析が間違っていた場合の対策を甘くみているのではないか」と、ガーテンは言う。

経済が抱える時限爆弾

6月にはドイツ銀行がインフレに関する報告書を発表し、物議を醸した。ドイツ銀行のエコノミストらは、いま世界経済は「時限爆弾を抱えている」と警告し、タイミングは23年になるとしても「インフレは到来する」と予測。FRBはコロナ後の雇用拡大などの「社会的目標」を追求しているが、インフレへの備えは不十分だろうと指摘した。

「バイデンが負のスパイラルを引き起こしている危険は確かにある」と、ハーバード大学のアンドレイ・シュレイファー教授は本誌のメール取材に答えた。彼が引用したのは、大学の同僚で元財務長官のローレンス・サマーズの主張だ。サマーズは、バイデンが打ち出した巨額の財政出動を伴うコロナ後の再生計画が、最低賃金の引き上げや規制強化などと相まって、深刻なインフレを引き起こす可能性があると指摘し、論議を呼んだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

クシュタール、セブン&アイへの買収提案撤回 真摯な

ビジネス

関税で物価圧力、インフレ転換点の可能性=米アトラン

ビジネス

米関税影響まだ初期段階、インフレ1%押し上げへ=N

ワールド

EU、包括的対ロ制裁案を依然可決できず スロバキア
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 2
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏にも送電開始「驚きの発電法」とは?
  • 3
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 4
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 5
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失…
  • 6
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 7
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 10
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 6
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 7
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 10
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 7
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中