最新記事

物価上昇

注目される米国のインフレリスク──当面はインフレ高進がコンセンサスも、持続的なインフレ加速の可能性で分かれる評価

2021年2月25日(木)19時12分
窪谷 浩(ニッセイ基礎研究所)

中央銀行への信認が続くかどうかがカギ(写真はワシントンのFRB) Leah Millis-REUTERS

<コロナ不況後の景気刺激策でアメリカは深刻なインフレに陥るのか、それとも限定的なインフレで収まるのか、警戒が強まっている>

*この記事は、ニッセイ基礎研究所レポート(2021年2月22日付)からの転載です。

1.はじめに

米国で1.9兆ドル(名目GDP比9%)規模の追加経済対策成立の可能性が高まる中、サマーズ元財務長官が大規模な経済対策によって「一世代でみられなかったようなインフレ圧力を引き起こす」可能性に言及したことから、米国のインフレリスクに注目が集まっている。

インフレ指標は昨春にかけて大幅に低下した水準からは持ち直しているものの、PCE価格指数や消費者物価指数(CPI)などは依然として新型コロナ流行前を下回っており、足元で物価上昇圧力は限定的となっている。

今後は、前年にインフレ率が低下した反動や、ワクチン接種の浸透に伴う経済の正常化の動きに加えて、追加経済対策が需給ギャップをインフレギャップに転換させることなどから、インフレ率の上昇が見込まれる。もっとも、追加経済対策の影響を中心に今後のインフレ率の上昇幅やインフレ高進が一時的に留まるのか、持続的なインフレ加速に繋がるのか市場やエコノミストの評価は分かれている。

本稿では足元の物価動向を確認した後、追加経済対策の影響も含めた今後インフレ見通しについて論じた。結論から言えば、当研究所は、追加経済対策に伴う景気押上げ効果は一時的とみられるほか、2000年以降、労働需給とインフレ率の連動性が低下しており、景気過熱に伴う労働需給の逼迫が持続的なインフレ加速に繋がり難い状況となっているため、追加経済対策によって持続的にインフレが加速する可能性は低いと判断しているというものだ。持続的なインフレ加速になる局面は、FRBに対する信認低下で期待インフレ率が持続的に上昇するレジームシフトが起きる時だろう。

motani1.jpg

2.足元の物価動向

(PCE、CPIは足元で物価上昇圧力が限定的であることを示唆)

FRBが物価指標としている個人消費支出(PCE)価格指数(前年同月比)は20年12月が+1.3%と20年5月の+0.5%から持ち直しているものの、新型コロナ流行前(20年2月)の+1.8%を大幅に下回っている(前掲図表1)。また、物価の基調を示す食料品とエネルギーを除いたコア指数も12月が+1.5%と20年4月の+0.9%から持ち直しているものの、新型コロナ流行前の+1.9%を下回っているほか、20年9月の+1.5%から頭打ちとなっている。

CPI(前年同月比)も21年1月が+1.4%と、20年5月に+0.1%まで大幅に低下した後は持ち直す状況が続いているものの、依然として新型コロナ流行前(20年2月)の+2.3%を大幅に下回っている。また、CPIのコア指数は1月が+1.4%と新型コロナ流行前の+2.4%を下回っているほか、PCEコア指数同様に秋口以降は20年9月の+1.7%をピークに頭打ちとなっている。

このため、PCE、CPIともに昨春からの持ち直しの動きは続いているものの、足元で物価上昇圧力は限定的と言えよう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、シリア南部で政府軍攻撃 ドルーズ派保護

ビジネス

独ZEW景気期待指数、7月は52.7へ上昇 予想上

ビジネス

日産が追浜工場の生産終了へ、湘南への委託も 今後の

ビジネス

リオ・ティント、鉄鉱石部門トップのトロット氏がCE
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 2
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 3
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 4
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 5
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 6
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 7
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 8
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 9
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 10
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中