最新記事

感染症対策

ずさんなワクチン製造の現場 J&J製造時にアストラゼネカ用の材料が混入

2021年7月30日(金)10時14分
英アストラゼネカの新型コロナウイルスワクチン

カナダとメキシコは、英アストラゼネカの新型コロナウイルスワクチンについて、保健当局が米国の製造委託先に対する適切なチェックをしないまま、数百万回分を輸入して国民に提供していた。各査察記録や関係当局への取材で明らかになった。写真はイメージ。3月撮影(2021年 ロイター/Dado Ruvic)

カナダとメキシコは、英アストラゼネカの新型コロナウイルスワクチンについて、保健当局が米国の製造委託先に対する適切なチェックをしないまま、数百万回分を輸入して国民に提供していた。各査察記録や関係当局への取材で明らかになった。

アストラゼネカが製造を委託したのは、米メリーランド州ボルチモアにあるエマージェント・バイオソリューションズの工場。ここでは米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)のワクチン製造も請け負っている。

海外向けのワクチン供給支援を迫られていたバイデン政権が3月終盤、アストラゼネカのワクチンをカナダに150万回分、メキシコに250万回分届けることを決めた。

エマージェントの工場は欧州医薬品庁(EMA)から「良好な製造工程」に沿って操業しているとお墨付きをもらっており、これに基づいてカナダとメキシコはワクチン使用を開始した、と両国の当局者はロイターに語った。

ところがロイターがEMAに問い合わせた結果、リモート査察を踏まえたこの認証は、実際にアストラゼネカのワクチンを製造している区域は対象外だったことが判明した。

一方米食品医薬品局(FDA)は、エマージェントの工場でJ&Jのワクチン製造に際してアストラゼネカのワクチンに使用する材料が混入していた事態を受け、工場の生産を停止させた。その後査察に入ったFDAの担当者は、工場の環境や従業員の不十分な訓練状況に不満を表明する報告書を作成した。

今のところエマージェントの工場で製造されたワクチンで何らかの病気になったとの報告はない。また当局側からも、汚染されたワクチンが誰かに接種されたとの指摘は出ていない。エマージェントは、工場で製造されたアストラゼネカのワクチンが汚染されたという証拠はないと主張している。」

それでもカナダとメキシコのワクチン輸入・使用承認手続きに不備があり、世界にまたがる複雑な製薬業界を各国当局が協力して監視する場合に盲点が生じる可能性が浮かび上がってきた形だ。

カナダの医薬品規制専門家は、どの承認基準が適用されるかを誰が把握しているかが分からない以上リスクがあると強調。カナダ保健当局が外国の規制当局にかなり依存している傾向があると苦言を呈した。

カナダ保健当局はロイターに、アストラゼネカの品質管理態勢を根拠に挙げた上で、輸入したワクチンの安全性に自信を持っていると回答した。メキシコ保健当局も、輸入・使用承認手続きは必要な厳格さを伴って実行されたとの確信は変わらないと述べた。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2021トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・誤って1日に2度ワクチンを打たれた男性が危篤状態に
・インド、新たな変異株「デルタプラス」確認 感染力さらに強く
・世界の引っ越したい国人気ランキング、日本は2位、1位は...


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米肥満薬開発メッツェラ、ファイザーの100億ドル買

ワールド

米最高裁、「フードスタンプ」全額支給命令を一時差し

ワールド

アングル:国連気候会議30年、地球温暖化対策は道半

ワールド

ポートランド州兵派遣は違法、米連邦地裁が判断 政権
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 10
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中