最新記事

東京五輪

東京五輪はアスリート生命を脅かすスーパースプレッダーになる?

A Superspreader Olympics Could 'Ruin' Athletes' Careers

2021年7月21日(水)19時03分
カシュミラ・ガンダー

本誌が東京五輪組織委員会にコメントを求めたところ、広報担当者は19日に行われた東京2020 新型コロナ対策に関する独立専門家パネルの委員長をつとめるブライアン・マクロスキー博士の記者会見での発言に言及した。博士は、オリンピックが集団感染の場になることを懸念しているかという問いに、こう答えた。

「現状は、想定の範囲内だ。PCR検査の結果がすべて陰性になると思っていたら、そもそも検査をしようとは思わなかっただろう」

マクロスキーは選手や大会関係者が出発前、到着時の空港、オリンピック村で繰り返し検査を受ける「フィルタリング」のプロセスを説明した。

「幾重ものフィルタリングの各層が、第三者に与えるリスクを軽減する。私たちが期待しているのはそこだ。そして現在の感染者数は実のところ、かなり低い。予想よりも格段に低いのだ」と、彼は言う。

オリンピックのプレイブックによると、オリンピックとパラリンピックの選手村に滞在する関係者の80%以上が大会に先立ってワクチン接種を受けることになっているが、ワクチン接種をしなくても、競技に参加することはできる。

ワクチン接種率の高さは、感染リスクが低いことを意味するが、それでもオリンピックがスーパースプレッダーイベントになって選手が感染するリスクはゼロにならない、とオーストラリアのビクトリア大学ミッチェル教育健康政策研究所所長のマクシミリアン・デ・コーテン教授は言う。

軽症でも選手には打撃

「ひとつの場所に集まる人が多ければ多いほど、コロナウイルスが一度に多くの人に感染するチャンスが増える」と、デ・コーテンは指摘する。

「ワクチン接種を受けた人でさえ、ウイルス、特にデルタ変異株には感染する可能性がある。ワクチン接種をしていればたいていの場合、症状は比較的軽く、感染力はそれほど強くない」

「しかし、オリンピックレベルで競技する選手の場合、軽い感染であっても、トップレベルの力を出すチャンスは奪われるかもしれない」

一方、オーストラリアのバーネット研究所の疫学者マイク・ツール教授は新型コロナ感染者の約30%が「ロング・コビッド(長引く後遺症)」を発症する、という推計をもとに、新型コロナに感染することは「アスリートとしてのキャリアを台無しにしかねない衰弱症状」を引き起こす可能性があると本誌に語った。

彼はまた、完治後も後遺症が長引くロング・コビッドの発症率は、感染の重症度とは関係がないことを指摘した。

米疾病予防管理センター(CDC)によると、新型コロナ感染後の持続的な後遺症には、息切れ、疲労感、ブレインフォグ(脳の霧)とよばれる頭にいつもモヤがかかって、思考力が低下する状態などがある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、米防衛企業20社などに制裁 台湾への武器売却

ワールド

ナジブ・マレーシア元首相、1MDB汚職事件で全25

ビジネス

タイ中銀、バーツの変動抑制へ「大規模介入」 資本流

ワールド

防衛省、川重を2カ月半指名停止 潜水艦エンジンで検
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 5
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 8
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中