最新記事

ドキュメント 癌からの生還

マクドナルド化する医療「それが、あなたに最適な治療なのか?」

AT A CRITICAL POINT

2021年7月21日(水)11時45分
金田信一郎(ジャーナリスト)
点滴

主要な疾患で先端医療が進む一方で、患者の少ない難病には焦点が当てられにくくなっている(写真はイメージです) BEE32 ISTOCK

<患者の年齢やライフスタイルを考慮せず、「標準化」が進む癌治療の流れに歯止めをかけるには──食道癌患者として入院した東大病院から「逃亡」、転院先で手術を回避し、生き延びたジャーナリストが元主治医たちへの取材を基に硬直化した現代医療の構造を解き明かす>

kaneda_cancer_book.jpg元日経ビジネス記者でジャーナリスト歴30年の金田信一郎は昨年3月、突然ステージ3の食道癌に襲われた。紹介された東京大学医学部附属病院(東大病院)に入院し、癌手術の第一人者で病院長が主治医になったが、曖昧な治療方針に違和感を拭えず、セカンドオピニオンを求めて転院。しかし転院先でも土壇場で手術をせず放射線による治療を選択し、今では以前とほぼ同じ日常を取り戻した。

金田は先頃、自らの体験を題材にしたノンフィクション『ドキュメント がん治療選択 ~崖っぷちから自分に合う医療を探し当てたジャーナリストの闘病記』(ダイヤモンド社)を上梓した。7月20日発売のニューズウィーク日本版(7月27日号)「ドキュメント 癌からの生還」特集では、200日の闘病記を16ページのルポルタージュにして収録。金田の闘いは、思考停止に陥った日本の医療体制、そして患者にも強烈な問いを投げ掛けている。「それが本当に最適な治療なのですか」と。

どうすれば、この流れに歯止めをかけられるのか。以下に続く記事で金田は、その糸口を探るべく、元主治医たちのもとを訪ねる。

◇ ◇ ◇

東大病院の建物に1年ぶりに入ったのは、2021年5月20日のことだった。

その日は、朝から雨が降っていた。夕方のロビーに人影は少ない。椅子に座って、昨年5月まで主治医だった病院長、瀬戸泰之との再会を待つ。

放射線治療を終えて体調は回復し、取材活動を再開した。そして、自分が治療中に突き当たった「謎」を解き明かしたいと思っていた。

「なぜ、最初に放射線治療という選択肢が示されなかったのか」。そこに、医療問題の構図を解く糸口が見えるはずだという確信があった。

◇ ◇ ◇

予定時間ぴったりに広報担当者が現れ、案内されて研究棟にある瀬戸の部屋に着いた。少し廊下で待つと、ドアが開く。黒縁眼鏡に柔和な表情は、入院当時のままだった。

「先生、お久しぶりです」

そう挨拶すると、ソファに掛けるように勧められた。

患者と主治医。1年前の関係と違って、この日はジャーナリストとして病院長の瀬戸にインタビューする。まずは医師としての経歴や、彼が第一人者となったロボット手術について聞いた(インタビュー全文はこちら)。そして、転院に至った経緯の質問に入る。

「私の(食道癌)治療ですが、思い返すと、最初から放射線でやるという選択肢はなかったんですか」

単刀直入に質問すると、瀬戸はこちらを正面から見据え、こう答えた。「その可能性もあります。患者さんが希望すれば、そういった選択肢もあるでしょう」

希望すれば......。その前提条件に違和感を覚えた。果たして、癌を告知された瞬間に、医師の勧めと違う治療法を口にすることができるのだろうか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

BNPパリバ、資産運用部門で20%人員削減へ 買収

ワールド

米連邦当局、ミネソタ州の教会内での反ICEデモ巡り

ワールド

台湾、ウクライナに協議呼びかけ 対ロ制裁違反指摘受

ビジネス

0─15歳の子ども1人に月10万円の教育給付金=参
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 2
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレアアース規制で資金が流れ込む3社とは?
  • 3
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている「とてつもなく巨大な」生物...その正体は?
  • 4
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 5
    老化の9割は自分で防げる...糖質と結び付く老化物質…
  • 6
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 7
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 8
    韓国が「モンスター」ミサイルを実戦配備 北朝鮮の…
  • 9
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 10
    ノーベル賞に選ばれなかったからグリーンランドを奪…
  • 1
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の船が明かす、古代の人々の「超技術」
  • 4
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 5
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 6
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 7
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 8
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手が…
  • 9
    中国のインフラ建設にインドが反発、ヒマラヤ奥地で…
  • 10
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中