最新記事

エチオピア

戦闘で陸の孤島と化したエチオピア・ティグレ州の惨状を訴える手紙

Tigray District Leader Offers Dire Account of Deaths, Looting in Region

2021年7月2日(金)19時31分
ジュリア・マーニン
ティグレ州の避難民

略奪に遭った農民たちの手元には種さえ残っていない(3月、ティグレ州の避難所で) Baz Ratner-REUTERS

<外部からの立ち入りが困難な複数の地域で大勢の人が虐殺され、飢え、支援の手も届かないなか命の危機にさらされている現状が詳細に綴られていた>

エチオピア北部のティグレ州では、昨年11月から政府軍と反政府勢力の戦闘が続き、人道支援が断たれて久しい。政府軍に包囲され通信網も遮断されて陸の孤島と化したティグレ州の一部では、もう何カ月も虐殺や性暴力、飢饉が続いているとされるが、戦闘の原因や詳しい現状は外にはほとんど伝わってこなかった。現地のあるリーダーが助けを求めて州当局に送った手紙で、惨状が一部明らかになった。

AP通信が入手した6月16日付の手紙には、隣国エリトリアの支援を受けたエチオピア政府軍と少数民族ティグレの軍事部門の戦闘が、現地に壊滅的な影響をもたらしたことが綴られている。手紙によれば、現地では5000棟の民家が略奪被害に遭い、少なくとも440人が死亡。性暴力の被害に遭った者は少なくとも558人にのぼるという。

「清潔な水や電気、電話、銀行、医療へのアクセスがない状態で、孤立し、人道支援へのアクセスも断たれている」と、マイ・キネタル地区のリーダー、ベルヘ・デスタ・ギブレマリアムは手紙の中で述べ、こう続けた。「エリトリア軍に完全に包囲されているため、どこへも逃げられない。交通手段もなく、みんな苦しんで死んでいくしかない」

ティグレ人たちは「落ち葉のように倒れていっている」と彼は述べ、支援が得られなければ2021年と2022年の状況は悲惨なものとなるだろうと警告した。

以下にAP通信による報道を引用する。

既に100人以上が餓死している

支援を求める手紙は、これまで「住民が家から避難している」という噂だけが聞こえてきていた遠く隔絶された地から届いた。ベルヘの署名が入った手紙には「助けて欲しい」と書かれていた。現地では少なくとも125人が餓死しているという。

戦闘で引き裂かれたティグレ州の中でも最もアクセスしにくい地域のひとつで、住民たちは身動きのとれない状態に置かれている。支援の手も届いていない。

手紙は、エリトリアの支援を受けたエチオピア政府軍とティグレ州をかつて支配していた者たちとの戦闘について、これまで知られていなかった、差し迫った現状を伝えている。何カ月にもわたって世界から隔絶されてきた、何十万人もの人々の現状だ。

アメリカは、ティグレ州に暮らす最大90万人がこの10年で最悪の飢餓に直面していると警告しているが、ティグレ州の広い地域については、詳しい状況がほとんど分かっていない。道路が遮断され戦闘が続き、人道支援団体も現地にアクセスできずにいる。

今週に入って、ティグレ人勢力が州都メケレに進軍し、政府軍が撤退。その後、政府が一方的な即時停戦を宣言したことで、支援のチャンスが訪れた。米国国際開発庁のある当局者は6月29日に米議員らに対して、遠隔地域に支援の手を差し伸べるために、複数の支援団体がすぐに停戦状況について検証する見通しだと述べた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ、鉱物協力基金に合計1.5億ドル拠出へ

ワールド

中韓外相が北京で会談、王毅氏「共同で保護主義に反対

ビジネス

カナダ中銀、利下げ再開 リスク増大なら追加緩和の用

ワールド

イスラエル軍、ガザ市住民の避難に新ルート開設 48
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中