最新記事

フランス

罰金は5万ドル、飲食店の「衛生パス」導入で美食の国フランスが終わる?

France Considering Fining Businesses Over $53K for COVID Violations

2021年7月16日(金)17時32分
マギー・ジャイル
パリのレストランのテラス席(2021年5月)

久々に再開されたパリのレストランのテラス席で過ごす人々(5月) Christian Hartmann-REUTERS

<フランス政府の厳しいコロナ規制に振り回される飲食店。今度は「衛生パス」の提示が義務付けられる可能性>

飲食店を利用する場合、客はワクチン接種証明、陰性証明、治癒証明のいずれかを提示する義務があり、違反した飲食店は5万3250ドル相当の罰金が科される可能性がある──。フランス政府は、こうした内容の法律の可決を目指しているという。AP通信が報じた。

実際にこの法律が施行されれば、パンデミック中の経済的な損失で苦境に立たされてきた小規模ビジネスは、決定的な打撃を被ることになるだろう。

カフェ「ママ・キン」を経営するゴーティエ・マックスは、もはやレストランやバーはくつろぎの場ではなく、制約だらけの窮屈な場となってしまったと話す。「私たちは事実上、警官になってしまった」

レストラン「ル・ブラン・ピュブリック」のマネージャーであるルイ・ルマユーは、「私たちはこれまで、客が店内で最高のひと時を過ごせるよう心を砕くことを仕事にしてきた。それなのにいまでは、客に注意ばかりしている。そんな訓練は受けていないのに」と語った。

ル・ブラン・ピュブリックは、パリ北東部を流れる運河に面した街角に位置している。一帯は若者に人気で、立ち並ぶカフェや運河沿いに多くの人が集まり、お酒を飲んだり音楽を聴いたりする。ストリートアートが目を引く陽気な地区だ。

近くには、パリの夏の風物詩である人工ビーチ「パリ・プラージュ」があり、その横には期間限定のワクチン接種予約センターがある。

経営はますます苦しくなる

繁華街にあるほかのレストランと同様に、ル・ブラン・ピュブリックも、絶え間なく変更されるコロナ関連規制を順守するのに苦労している。

フランスでは2021年5月、約7カ月ぶりにレストランが再開されたが、収容人数の制限を守らなかったことを理由に、閉鎖を余儀なくされた飲食店は数百店に上る。ル・ブラン・ピュブリックもそのひとつで、鮮やかな色の金属製シャッターが下ろされ、食事をする客の姿はない。

カフェやバーの経営者は、この法律によって「衛生パス」の提示が義務づけられるようになったら、ますます商売が難しくなると不安を抱く。この状況に憤るレストラン経営者らと地区の警察署長による会合で、コロナ対策をめぐる課題も話し合われた。

労働組合は、衛生パスの提示義務付けに反発している。また、7月14日にはパリやフランス各地で、コロナ対策の強化に抗議するデモが行われた。観光客たちも、8月の義務化を前に、どうすれば衛生パスを入手できるのかと戸惑いを隠せない。フランス政府はまもなく回答を出すとしている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

エヌビディア決算に注目、AI業界の試金石に=今週の

ビジネス

FRB、9月利下げ判断にさらなるデータ必要=セント

ワールド

米、シカゴへ州兵数千人9月動員も 国防総省が計画策

ワールド

ロシア・クルスク原発で一時火災、ウクライナ無人機攻
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋肉は「神経の従者」だった
  • 3
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく 砂漠化する地域も 
  • 4
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 5
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 6
    一体なぜ? 66年前に死んだ「兄の遺体」が南極大陸で…
  • 7
    『ジョン・ウィック』はただのアクション映画ではな…
  • 8
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    株価12倍の大勝利...「祖父の七光り」ではなかった、…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 6
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 7
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 8
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 9
    「このクマ、絶対爆笑してる」水槽の前に立つ女の子…
  • 10
    3本足の「親友」を優しく見守る姿が泣ける!ラブラ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中