最新記事

東京五輪

習近平が東京五輪を「熱烈支持」する本当の理由

THE GAMES MUST GO ON

2021年6月17日(木)15時25分
メリンダ・リウ(本誌北京支局長)
習近平国家主席

2022年の北京冬季五輪について語る習近平国家主席(画面中央) KEVIN FRAYER/GETTY IMAGES

<2022年の北京冬季五輪ボイコットを封じるためだと思われがちだが、それだけではない>

コロナ禍で1年延期されていた東京五輪が、相変わらず難問に直面している。日本の一部地域では、依然として新型コロナウイルス感染症の拡大ペースが衰えていない。

東京都も、6月1日に緊急事態宣言を再延長したばかりだ。外国からの観客受け入れは断念したものの、日本の世論は開催の中止を求めている。

それでも五輪を開催したい菅義偉首相に、意外な(しかし強力な)応援団長が登場した。中国の習近平(シー・チンピン)国家主席だ。

習は5月8日にIOC(国際オリンピック委員会)のトーマス・バッハ会長と電話会談をしたとき、中国は東京五輪の開催を支持すると表明したという。

もちろん日本は今もアメリカの同盟国であり、中国はアメリカについて「中国包囲網を築いて中国の成長を阻止し、中国と新冷戦をやりたがっている」と強い疑念を抱いている。日中間にも尖閣諸島(中国名・釣魚島)の領有権問題など、厄介な問題が根強く残っている。

だが中国は、もっと差し迫った戦略目標のために、長年の懸案をひとまず横に置くことにしたようだ。

習としては、東京五輪の開催を支持することで、2022年2月に予定されている北京冬季五輪を完全な形で開催したいと思っている。

というのも、主要国の間では、中国のウイグル人に対する人権弾圧などを理由に、北京冬季五輪をボイコットするべきだという声が強まっているのだ。

5月のバッハとの電話会談でも、習は東京五輪と北京冬季五輪を明確に結び付けた。中国の国営新華社通信によると、習は東京五輪の開催支持を表明しただけでなく、中国が北京冬季五輪とパラリンピックを「予定どおり開催することに自信」を示したという。

中国メディアは、ボイコット論の黒幕はアメリカだと非難してきた。中国政府の代弁者的な存在として知られる共産党機関紙人民日報系のタブロイド紙、環球時報の胡錫進(フー・シーチン)編集長は、北京冬季五輪をボイコットするという脅しは、「一握りの白人至上主義の国々によるオリンピックファミリーに対する」脅しに等しく、「自主的な孤立の表明」だとツイートしている。

中国勢のメダルラッシュを

中国が東京五輪を支持すれば、菅は北京冬季五輪の全面的なボイコットに参加しにくいはずだ。それでなくても、日本にとって中国は最大の貿易相手国であり、中国からの報復を恐れているはずだ──。中国の専門家らはそう踏んでいる。

実際、ウイグル人迫害に絡む中国共産党高官に対する制裁でも、日本はG7で唯一名を連ねていない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英小売売上高、10月は5月以来の前月比マイナス 予

ワールド

マクロスコープ:円安・債券安、高市政権内で強まる警

ワールド

ABC放送免許剥奪、法的に不可能とFCC民主党委員

ワールド

アングル:EUの対中通商姿勢、ドイツの方針転換で強
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 5
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 10
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中