最新記事

シリア

10年戦争で崩壊したシリア、国民をさらに苦しめる「最悪の飢餓」が迫る

Biden to Prod Putin on Syria Relief

2021年6月17日(木)17時50分
コラム・リンチ(フォーリン・ポリシー誌外交問題担当)
ダマスカス近郊を歩く子供

ダマスカス近郊の町で、崩壊した建物の前を歩く子供 OMAR SANADIKI-REUTERS

<ロシアの圧力により最後の越境支援ルートも閉鎖の危機に。支援の道が断たれれば人道上の悲劇を招く>

6月16日の米ロ首脳会談で、ジョー・バイデン米大統領はロシアのウラジーミル・プーチン大統領にシリアへの越境人道支援を拡大するよう個人的に迫る構えだ。複数の消息筋によれば、この結果、中東の中心に位置する国で新たな人道上の悲劇が起きるのを阻止するためにアメリカの役割が重要性を増す。反米の筆頭格ともいうべき国から譲歩を引き出せるかどうか、バイデンの手腕も試される。

これに先立ち、アントニー・ブリンケン米国務長官は3月に行われたシリアの人道危機を議論する国連安全保障理事会で支援強化の必要性を訴えた。リンダ・トーマスグリーンフィールド米国連大使も6月2日にトルコを訪れ、トルコおよびイラクの国境からシリア側への越境支援を拡大する計画に支持を求めた。オバマ、トランプの両政権が無関心だった国に再び関与しようという、バイデン政権の限定的だが一貫した取り組みの表れだ。

シリア北西部と北東部の反政府勢力支配地域の民間人にトルコ、ヨルダン、イラクとの国境にある一握りの検問所経由で支援物資を届ける国連の大規模計画は、ロシアの圧力で縮小を余儀なくされてきた。「人道上の悲劇」を招きかねないとの国連の警告をよそに、越境支援を可能にする国連決議案が期限を迎える7月10日を前に、ロシアは計画の完全中止か、少なくとも期間を1年から半年に短縮する可能性をにおわせている。

340万人以上が人道支援に頼る

シリアでは10年に及ぶ内戦で民間人数十万人が死亡、国外に逃れた難民は660万人以上、国内にとどまる避難民もおよそ650万人に上る。現在シリア北西部では340万人以上が人道支援に頼っており、北東部でも180万人以上が支援を必要とする。北東部の状況は昨年以降悪化している。新型コロナウイルス対策に必要な医療物資の輸送を担当していたイラク国境のアル・ヤルビヤ検問所をロシアが閉鎖に追い込んだためだ。

「現在シリアの人々の状況は、安保理が前回レビューを実施した9カ月前と比べて悪化している」と、国連人道問題調整事務所(OCHA)は支援状況に関する4月11日の極秘評価で指摘した。「北東部の状況も、昨年アル・ヤルビヤが国連の公認検問所から外れたのを受けて悪化している」

北西部の状況はそれ以上に深刻で、OCHAによれば「シリア北西部の交戦地帯では何百万もの人々が国境に追いやられ、生きるために人道支援を必要としている」という。ロシアが最後に残ったトルコ国境のバブ・アル・ハワ検問所の閉鎖も迫ると国連の外交官らはみている。国連はこの検問所から毎月約1000台のトラックでシリア北部イドリブ県に支援物資を運び、反政府勢力支配地域の240万人以上に届けている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがイラン再攻撃計画か、トランプ氏に説明へ

ワールド

プーチン氏のウクライナ占領目標は不変、米情報機関が

ビジネス

マスク氏資産、初の7000億ドル超え 巨額報酬認め

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中