最新記事

ワクチン

ワクチン接種で先行した国々に学ぶ国家戦略の重要性と、先行国が見据える未来

VACCINATION PRIDE

2021年6月16日(水)11時53分
ウィリアム・アンダーヒル(ジャーナリスト)

210608p18va_02.jpg

イギリスでは規制措置が緩和され、パブでの飲酒も解禁 DAN KITWOOD/GETTY IMAGES

ベンヤミン・ネタニヤフ首相は、「コロナウイルスから最初に解放された国」を実現したと主張。世界中の国がイスラエルからワクチン戦略のヒントを得ようとしている。

イギリスとイスラエルはどのようにして、世界を牽引する存在になったのか。最初のカギは、ワクチン調達の機敏性だ。

イギリスは昨年4月に、バイオテクノロジー分野の投資経験が豊富なベンチャーキャピタリストを中心とするワクチン戦略のタスクフォースを立ち上げた。勝ちが見込めるなら未知の選択肢も辞さないという賭けは、見事に成功した。イギリスは昨年末までにアストラゼネカ、モデルナ、ファイザーなど大手製薬会社と契約を結び、ワクチンの開発段階から、安定した供給をいち早く確保した。まだ未承認の2つのワクチンも、数百万回分を注文している。

同じように重要なのは、国民の賛同だ。イギリスでは国民保健サービス(NHS)の信頼性が高いことと、マスメディアや、党派に関係なく政治家がワクチン接種を支持しているおかげで、「反ワクチン」の問題はほとんど起きていない。「イギリスの人々は信じられないほど従順だ。大きなリスクを理解し、それに合わせて行動している」と、ロンドン大学衛生・熱帯医学大学院の疫学者ジョン・エドマンズ教授は言う。

ほかにもワクチン接種のアクセスの良さ(人口の98%が接種会場から約15キロ圏内に住んでいる)や、集中管理された医療システムなどを考えると、7月末までに全ての成人に少なくとも1回の接種を済ませるという目標も達成できそうだ。

ワクチンのリスクも冷静に判断

確かに、イギリスでも貧困層や一部のマイノリティーグループ(特に黒人コミュニティー)に比べ、富裕層の接種率が高い。しかし一方で、例えばアメリカは、4月の世論調査で成人の約4人に1人が積極的に接種したくないと答えている。

「アメリカには、連邦政府からのあらゆる指示を敵視する人が一定数いる。トランプ前政権下で新型コロナが政治問題化され軽視されたことが、それを助長している」と、米カリフォルニア州のワクチン接種センターでボランティア活動をしている弁護士のジョン・デリックは言う。「リバタリアン(自由至上主義者)的な理由でマスクを嫌がった多くの人が、ワクチンを打ちたくないと思っている」

ワクチンの深刻な副作用が報じられても、イギリスの人々の信頼はほとんど揺るがない。アストラゼネカ製ワクチンの接種が、命に関わる血栓の発生にごくわずかながら有意な関連性があるという調査結果が発表されると、多くの国でワクチン接種に対する信頼が急激に低下した。

しかしイギリスでは、新型コロナに感染した場合の危険性は、ワクチン接種がもたらす危険性よりはるかに高いという公式見解を、人々が前向きに受け入れている。NHSは血栓症の素因がある人にはアストラゼネカ以外のワクチンを勧めるよう、指針を更新しただけだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

感謝祭当日オンライン売上高約64億ドル、AI活用急

ワールド

ドイツ首相、ガソリン車などの販売禁止の緩和を要請 

ワールド

米印貿易協定「合意に近い」、インド高官が年内締結に

ワールド

ロシア、ワッツアップの全面遮断警告 法律順守しなけ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 6
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 7
    エプスタイン事件をどうしても隠蔽したいトランプを…
  • 8
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 9
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 10
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 7
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中