最新記事

サイエンス

カメラや望遠鏡が、紙のように薄くなる?光学素子が開発される

2021年6月15日(火)16時30分
松岡由希子

メタレンズと「スペースプレート」を組み合わせるとカメラの出っ張りをなくせる...... Credit: Orad Reshef and Jeff Lundeen

<カナダ・オタワ大学の研究チームは、既存の光学デバイスを大幅に小型化できる新たな光学素子の開発に成功した>

カナダ・オタワ大学の研究チームは、紙くらいの薄さの望遠鏡や小型で軽量な高性能カメラなど、既存の光学デバイスを大幅に小型化できる新たな光学素子の開発に成功した。その研究成果は、2021年6月10日、オープンアクセスジャーナル「ネイチャーコミュニケーションズ」で発表されている。

光の拡散に必要なスペースを圧縮する

光は、移動するときに自然と拡散する。あらゆる光学デバイスでは、この光の拡散が用いられている。たとえば、望遠鏡は、接眼レンズと対物レンズの間に大きな隙間があり、この隙間で光が拡散している。

レンズは、光線の位置を介して動作する。これに対して、ナノメートル規模で光の振る舞いや物体と光との相互作用を研究する「ナノフォトニクス」の専門家で、研究論文の筆頭著者であるオタワ大学のオラド・レシェフ博士は「光線の位置ではなく、角度に基づいて、光を操ることはできないか」との仮説を立て、光の拡散に必要なスペースを圧縮する「スペースプレート」を考案した。

この新たな光学素子は、その厚さよりもはるかに長い距離にわたって光を効果的に拡散させ、小さなデバイスでも、光が長距離を移動するときと同等の拡散をもたらすのが特徴だ。

カプセル内視鏡など、医療の分野にも応用の可能性

「スペースプレート」を用いることで、ディスプレイやセンサーなど、既存の光学デバイスをより小型化、軽量化できる。たとえば、メタレンズと「スペースプレート」を組み合わせることで、スマートフォンの背面のカメラバンプ(飛び出し)をなくし、薄く平らにできる。

大きく重い高性能カメラよりも小さく軽量で、14倍も優れた解像度と低輝度性能を備えたカメラを開発できる。また、動脈や消化器系の内部を撮影するカプセル内視鏡など、医療の分野にも応用できる可能性がある。

研究チームでは、「スペースプレート」の圧縮率を5〜100倍に上げ、透過率を高める設計をすでに考案しているが、今後、さらに圧縮率を上げ、全体のパフォーマンスを改善するべく、研究開発をすすめていく方針だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

植田総裁、21日から米国出張 ジャクソンホール会議

ビジネス

中国のPEセカンダリー取引、好調続く見通し 上期は

ワールド

マスク氏が第3政党計画にブレーキと報道、当人は否定

ワールド

訪日外国人、4.4%増の340万人 7月として過去
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 2
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 3
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家のプールを占拠する「巨大な黒いシルエット」にネット戦慄
  • 4
    【クイズ】2028年に完成予定...「世界で最も高いビル…
  • 5
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 6
    広大な駐車場が一面、墓場に...ヨーロッパの山火事、…
  • 7
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 8
    【クイズ】沖縄にも生息、人を襲うことも...「最恐の…
  • 9
    習近平「失脚説」は本当なのか?──「2つのテスト」で…
  • 10
    時速600キロ、中国の超高速リニアが直面する課題「ト…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 4
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 5
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 6
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 7
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 8
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 9
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 10
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中