最新記事

新型コロナウイルス

コロナの絶望に沈むインドに差す希望の光 建国の精神「友愛」が国を救う?

A Glimmer of Hope

2021年6月1日(火)19時06分
テミナ・アローラ(在デリー弁護士)
インド・コルカタでワクチン接種を待つ人々

危機はインドを一つにするか(5月、コルカタでワクチン接種を待つ人々) RUPAK DE CHOWDHURIーREUTERS

<感染爆発のなかで広まる市民同士の助け合い。建国の理念をよみがえらせ、差別や暴力を駆逐する好機だ>

絶望的な新型コロナウイルスの感染爆発が続くインドに、かすかな希望の光が差している。助け合いが広がっているのだ。不足する医療用酸素や薬品、病床を求めるSNS上の声に次々と救いの手が差し伸べられている。

宗教間の対立をあおる政治家たちを尻目に、宗教施設がコロナ病棟として提供され、食料や酸素が分配されている。助け合っているのはヒンドゥー教徒やシーク教徒、イスラム教徒、キリスト教徒だ。

単なる多元主義を超えた「友愛」の意識を、インド憲法は建国の精神として掲げてきた。政府が第2波のコロナ対応に大失敗したことでいや応なしによみがえった連帯だが、これは本来共同体を成り立たせるカギでもある。

「『友愛』とは社会生活における連帯、結束の原則」だと、憲法起草委員会委員長のアンベードカルはかつて述べた。憲法51条には「全ての市民は宗教、言語、地域や階級の違いを超えて調和と連帯を促進する義務がある」とある。

ところが近年、宗教間の対立による暴力が多発し、この理念は危機にさらされていた。昨年は首都デリーでイスラム教徒に対する大規模な集団暴力が発生。異なる宗教への攻撃をあおる言葉がちまたにあふれていた。

宗教絡みの暴力事件で加害者は罪に問われず

アメリカ政府の米国国際宗教自由委員会(USCIRF)は今年、政府や自治体も宗教的少数者への暴力を容認しているとしてインドを「特別な懸念を要する国家」に指定。州レベルの改宗禁止法や、不法移民に市民権を付与する一方でイスラム系を対象外とした市民権改正法などに憂慮を示した。

本来、不正義を正すべきインドの立法・行政・司法やメディアは、問題をより悪化させている。例えば宗教絡みの暴力事件の多くで、加害者側はほとんど罪に問われていない。デリー首都圏政府は昨年のイスラム教徒への暴力を調査する真実究明委員会を設立したが、そこでは被害者が警察は暴力の現場をただ傍観していたと証言した。

インドの政治家も繰り返しヒンドゥー教とイスラム教の間の対立をあおり、人気取りに利用してきた。5月にも、与党インド人民党(BJP)の国会議員の言い掛かりにより、南部バンガロールのコロナ対策施設でイスラム教徒のスタッフたちが停職に追い込まれるという一件があった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米長官らスイス到着、ウクライナ和平案協議へ 欧州も

ワールド

台湾巡る日本の発言は衝撃的、一線を越えた=中国外相

ワールド

中国、台湾への干渉・日本の軍国主義台頭を容認せず=

ワールド

EXCLUSIVE-米国、ベネズエラへの新たな作戦
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 6
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 7
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 8
    Spotifyからも削除...「今年の一曲」と大絶賛の楽曲…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中