最新記事

教育

「宿題なし・定期テストなし」でも生徒が勝手に勉強する公立中学校の『肯定感の育て方』

2021年6月10日(木)18時05分
工藤 勇一(横浜創英中学・高等学校校長) *PRESIDENT Onlineからの転載
横浜創英中学・高等学校校長の工藤 勇一さん

横浜創英中学・高等学校校長の工藤 勇一さん(撮影:岡村智明)


子供の自主性はどうすれば育つのか。横浜創英中学高等学校校長の工藤勇一さんは、2014年から6年間務めた名門千代田区立麹町中学校の校長時代に、宿題、定期テスト、クラス担任制を廃止した。「日本の学校教育は『起立、気をつけ、礼、着席』に象徴されるように、すべて命令形。これでは主体性は育ちません」という。工藤さんが生徒に繰り返し使ってきた3つの魔法の質問を紹介しよう――。

※本稿は、『プレジデントFamily2021春号』の一部を再編集したものです。

自分で決められる子になる「3つの言葉」

私はおととしまで、東京都の千代田区立麹町中学校で校長を務めていましたが、毎年、中1の入学後に着手するのは、生徒の主体性を取り戻すリハビリでした。

今の子たちの中には、幼いときから勉強も遊びも与えられ続け、親や大人の指示にしたがってきた子が少なくありません。

そういう子は、楽しいことも、やるべきことも、外から与えられるのが当然と、無意識で思ってしまっています。その結果、自分で決めて行動することができない子が多いのです。

また、日本の学校教育は、「起立、気をつけ、礼、着席」に象徴されるように、すべて命令形です。これでは主体性は育ちません。

主体性を失ってしまった子を変えるために、問題が起きるたびに私たちが繰り返し使ってきた三つの言葉があります。

まず一つ目の言葉は「どうしたの?」です。お互いに現状を把握する言葉です。その回答がどんなに勝手な理由でも叱ったりはしません。

二つ目は「じゃあ、この後、君はどうしたいの?」です。この質問に答えられない子が大半です。今までそう問われる経験がなかったから当然です。

そこで三つ目に「何か手伝えることはある?」と尋ねます。最初のうちは解決策をこちらから提案し、最終的にどうするかは生徒に任せるようにしていました。

私たちは学校でトラブルが起きたときにも、頭ごなしに叱ったりせず、必ずこの三つの言葉を使って生徒と対話してきました。三つの言葉がすべて質問形になっている点がポイントです。

「自分で国や社会を変えられると思う」率が3倍近く多い

自分で決めるという経験を積み重ねるうちに、子供たちの自己肯定感はどんどん上がっていきます。その証拠とも言える興味深い調査結果があります。

世界の若者が対象の「18歳意識調査」で「自分で国や社会を変えられると思う」という項目で「そう思う」と答えた日本の若者は18.3%で9カ国中、最下位でした。

しかし、同じ質問を麹町中の3年生にしたところ、50.5%もの生徒が「そう思う」と答えたんです。自己決定を繰り返す中で自分に自信がついたのだと思います。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ソフトバンクG、7―9月純利益2.5兆円 CFO「

ワールド

中国CO2排出量、第3四半期は前年比横ばい 通年で

ビジネス

インフレリスク均衡、金利水準は適切=エルダーソンE

ワールド

英7─9月賃金伸び鈍化、失業率5.0%に悪化 12
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一撃」は、キケの一言から生まれた
  • 2
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    コロンビアに出現した「謎の球体」はUFOか? 地球外…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    ギザのピラミッドにあると言われていた「失われた入…
  • 7
    インスタントラーメンが脳に悪影響? 米研究が示す「…
  • 8
    中年男性と若い女性が「スタバの限定カップ」を取り…
  • 9
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 10
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中