最新記事

宇宙

ダークマターのマップ化に成功 銀河を繋ぐフィラメント状構造が確認された

2021年5月27日(木)18時15分
松岡由希子

銀河(黒い点)を中心として、ダークマターのマップ化に成功 銀河間をつなぐフィラメント構造が確認された Credit: Hong-Astrophysical Journal

<米ペンシルバニア州立大学などの研究チームは、機械学習により、銀河の分布と動きにまつわる情報を用いたモデルを構築し、ダークマターの分布を予測することに成功した>

宇宙の約80%を占めるダークマター(暗黒物質)は、「コズミックウェブ」と呼ばれる壮大な銀河同士のネットワークを形成している。

コズミックウェブは重力によって銀河や銀河間物質のすべての動きを決定しているため、ダークマターの分布を知ることはコズミックウェブの研究において不可欠だ。

しかし、ダークマターは直接観測できないため、その分布については、宇宙の他の物体への重力の影響をもとに推測するのみにとどまっている。

機械学習により、ダークマターの分布を予測することに成功

米ペンシルバニア州立大学、韓ソウル市立大学校らの研究チームは、機械学習(ML)により、銀河の分布と動きにまつわる情報を用いたモデルを構築し、ダークマターの分布を予測することに成功した。一連の研究成果は、2021年5月26日、学術雑誌「アストロフィジカルジャーナル」で公開されている。

研究チームは、ダークマター、銀河、銀河間ガスなどを含む銀河形成の大規模なシミュレーション「イルストリス-TNG」を用いてこのモデルを構築し、学習させた。

さらに、「コズミックフロー-3」銀河カタログからの既知の銀河の分布と動きに関するデータにこのモデルを適用し、ダークマターのマップを作成した。

このマップでは、天の川銀河を含む「ローカルシート」やアンドロメダ銀河のある「ローカルグループ」、銀河や星間物質などが存在しない巨大な宇宙の領域「ローカルボイド」など、既知の局所宇宙の構造が再現されているほか、これまで発見されていない、銀河間をつなぐフィラメント状構造も複数確認されている。

ダークマター研究で宇宙に未来を知る

ダークマターは宇宙のダイナミズムを支配している。つまり、ダークマターが宇宙の運命を決定づけているのだ。たとえば、天の川銀河とアンドロメダ銀河はゆっくりと互いにむかって移動している可能性が示唆されているが、それらが何十億年をへて衝突する可能性があるかどうかはわからない。こうしたことがダークマターのフィラメントを研究することで将来への洞察を得ることができる。

ダークマターの正確なモデルがあれば、宇宙の未来をじっくりと見つめ、向かっている方向を知ることができる。研究チームは「コズミックウェブのマップ化が宇宙論の研究に新たな1ページを開く」と期待を寄せている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国GDP、第1四半期は前期比+1.3% 市場予想

ビジネス

バイオジェン、1―3月利益が予想超え 認知症薬低調

ビジネス

フォード、第2四半期利益が予想上回る ハイブリッド

ワールド

バイデン氏陣営、選挙戦でTikTok使用継続する方
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 8

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中