最新記事

日本社会

統計上の失業率では見えない「潜在失業者」に目を向けよ

2021年5月12日(水)13時30分
舞田敏彦(教育社会学者)
コロナ禍の失業イメージ

コロナ禍で非正規雇用の女性の就労者数は大きく減っている Plateresca/iStock.

<子育て中の女性など、働きたいと思っても求職活動すらできない人の数は統計値には反映されない>

コロナ禍で生活不安が広がっているが、人々の生活困窮を可視化する代表的な指標は失業率だ。失業率とは、働く意欲のある人のうち、職に就けないでいる人が何%いるかを言う。分子には、調査時点でハローワークに行くなど具体的な求職活動を行った人の数が入る。

しかし、働きたいのに職に就けないでいる人をこのように限定していいのだろうか。就労を希望しつつも、様々な事情から求職活動ができない人もいる。上記の当局の定義だと、こういう人は失業者とはカウントされない。このように漏れている人は「潜在失業者」と呼ばれたりする。

生活困窮の指標としての失業率を出す場合、こうした潜在部分もすくわなければならないだろう。<図1>は、2017年の総務省『就業構造基本調査』から作成した15歳以上人口の組成図だ。

data210512-chart01.png

働いている有業者と、働いていない無業者の比率は大よそ「3:2」となっている。有業者は、従業地位でみると正規雇用、非正規雇用、それ以外の自営等に分かれるが、最近では非正規雇用の比重が増している。よく言われるように、今では働く人の3割が非正規雇用だ。

右側の無業者は、働く意欲がある人とそれがない人(⑥)からなる。前者は、求職活動をしている求職者(④)と、それをしていない非求職者(⑤)に分かれる。一般的な失業率は以下のようにして算出される。狭義の失業率と呼んでおく。

▼狭義の失業率=④/(全体-⑥)

分子は求職活動をしている人で、分母には、働く意欲がない就業非希望者(⑥)を全数から除いた数が入る。

だが上述のように、「働く意欲のある人のうち、職に就けないでいる人は何%か」という意味の失業率にするには、上図の⑤も分子に加えるべきだろう。調査時に求職活動をしなかった(できなかった)というだけで、就労を希望していることには変わりない。この部分も含めた広義の失業率は以下の式で出す。

▼広義の失業率=(④+⑤)/(全体-⑥)

<図1>の④~⑥の数値を使って2つの失業率を出すと、狭義の失業率が4.5%、広義の失業率が11.4%となる(2017年10月時点)。倍以上違うが、生活困窮を測る失業率としては、潜在量も含めた後者のほうがいい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英総選挙、7月4日に実施 スナク首相が表明

ビジネス

〔ロイター調査〕米S&Pの年末予想中央値5300近

ビジネス

米4月中古住宅販売、前月比1.9%減の414万戸 

ビジネス

英アングロ・アメリカン、BHPの3度目の買収案拒否
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結果を発表

  • 2

    「目を閉じれば雨の音...」テントにたかる「害虫」の大群、キャンパーが撮影した「トラウマ映像」にネット戦慄

  • 3

    高速鉄道熱に沸くアメリカ、先行する中国を追う──新幹線も参入

  • 4

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された─…

  • 5

    魔法の薬の「実験体」にされた子供たち...今も解決し…

  • 6

    「テヘランの虐殺者」ライシ大統領の死を祝い、命を…

  • 7

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 8

    イスラエルはハマスの罠にはまった...「3つの圧力」…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 4

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 10

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中