最新記事

新型コロナウイルス

新型コロナが「ただの風邪症状を引き起こすウイルス」になると考えられる2つの理由

OUR FUTURE WITH COVID-19

2021年5月7日(金)16時15分
山本太郎(長崎大学熱帯医学研究所教授)
新型コロナウイルス、ロックダウン

感染拡大やロックダウンは続くが収束への道筋も見え始めた KAI PFAFFENBACH-REUTERS

<日本など変異株が猛威を振るっている国もあるが、世界全体を見れば、感染症収束に向けての動きが見えてきた。集団免疫はどのように達成されるのか。その免疫は本当に効果があるのか。今後の3つのシナリオを検討する>

中国・湖北省武漢で発生した今回の新型コロナウイルス感染症が汎世界的に流行(パンデミック)して、1年以上が経過した。イタリアやスペイン、フランスといったヨーロッパの国では、変異株ウイルスが再流行し、ロックダウン(都市封鎖)が行われている(2021年4月1日現在)。

日本でも第4波の流行が懸念され、東京都や大阪府、兵庫県、宮城県などにまん延防止等重点措置が適用されている(編集部注:5月11日現在は東京、大阪、京都、兵庫の4都府県に緊急事態宣言が発令され、その延長と対象地域の拡大が決まる見込み)。

しかし一方で、世界全体を見てみると、各地でワクチン接種が始まり、逆説的だが新型コロナウイルス感染症収束に向けての動きが見えてきたようにも思える。

イギリスに「夜明け前が最も暗い」ということわざもある。

事実、アメリカやイギリス、そして世界最速ペースで国家レベルでのワクチン接種を進め、人口の半数以上が2回の接種を終えたイスラエルでは、新規の感染者数に明らかな低下傾向が認められる。

そこで本稿では、これまでに分かった知見を基に、今後想定されるシナリオを提示し、私たちの前にどのような世界が現れてくるか考察してみたい。まずは、集団免疫と収束について、次いで2030年とそれ以降の世界について考えてみたい。

ある集団で実効再生産数(感染者1人が新たに何人に感染させるかを示す指標)が1を下回るために必要な、免疫を獲得した人の割合を集団免疫という。

そして例えば、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)では、基本再生産数(誰一人として免疫を獲得していない集団で、1人の感染者が何人に感染させるかの平均値)は、現代社会では2~3の間の値を取ると推定されている。

話を単純化するために、新型コロナウイルスの基本再生産数を2.5とすれば、60%以上の人が何らかの形(自然感染かワクチンかのいずれかとなる)で免疫を獲得すれば、ウイルスは集団に持ち込まれても、流行は拡大せず収束へと向かう。これが集団免疫である。

結論から言えば、集団免疫を達成することによってのみ、今回の新型コロナウイルス感染症は収束に向かう。そしてその集団免疫は、理論的には自然感染かワクチン接種、あるいはその両者によって獲得されることになる。

一方で、ある時点において集団免疫が獲得できたとしても、社会は、新生児という形で新たに感染する可能性のある感受性者を用意する。新たに生まれてきた子供は免疫を持っていないからだ。

しかしそうした感受性者も、自然感染かワクチン接種によって、集団免疫を達成する水準の割合で免疫を獲得する必要がある。そうして初めて、集団は安定的な集団免疫水準を維持できることになる。

そうした社会では、今回の新型コロナウイルスはどのような感染症になっていくのだろうか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国最高裁、李在明氏の無罪判決破棄 大統領選出馬資

ワールド

イスラエルがシリア攻撃、少数派保護理由に 首都近郊

ワールド

学生が米テキサス大学と州知事を提訴、ガザ抗議デモ巡

ワールド

豪住宅価格、4月は過去最高 関税リスクで販売は減少
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    フラワームーン、みずがめ座η流星群、数々の惑星...2…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中