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温家宝の投稿はなぜ消えたのか?

2021年5月5日(水)13時42分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)
温家宝

2012年の温家宝 Samrang Pring-REUTERS

3月から4月にかけて『澳門導報』に掲載された温家宝の母親追憶集が中国のネットから消えた。中国共産党内の条例に基づいて考察するに、温家宝自らが取り下げた可能性が最も高いと判断される。

『澳門導報』に掲載された温家宝の追憶集の問題点

今年3月25日から4月15日にかけて、『澳門導報』に【清明追憶】我的母親(私の母親) というタイトルで、温家宝前国務院総理が自分の母親を追悼する追憶集が4回にわたって連載された。

一言一句漏らさずつぶさに読んだが、この私でさえ、「これは国家のトップに立っていた前国務院総理として使うべき単語ではないのでは?」と思われる個所が最後にあった。

それは文末にある数行ほどの、以下に示す文章の中で使われている。

――私は貧しい人に同情し、弱者に同情し、いじめや圧迫に反対します。私の心の中にある中国は、公平と正義に満ちた国であるべきで、そこには人の心や人道および人間の本質への尊重があるべきで、そこには永遠なる青春と自由と奮闘の気質がなければならない。私はそのために声を上げてきたし、奮闘しても来た。これはこれまでの生活が私にわからせてきた心理で、母が私に授けたものでもある。

これらの主張は、自由主義国家で生活する者からすれば、至極当然で、むしろ民主主義国家の価値観に合致する。

しかし、温家宝は今もなお中国共産党党員であるだけでなく、何と言っても国家のトップに立っていた国務院総理という立場だった人間だ。中国のような一党支配体制を構築している国家からすれば、「引退すれば何を言ってもいい」ということではないし、ましてやまだ党員である以上、党規約や条例を守らなければならないだろう。

上記引用文で問題なのは日本語で「あるべき」とか「なければならない」と翻訳するしかない中国語の二文字「応該(インガイ)」(~であるべき)である。

この「応該」は軽い意味合いで使われることもあるが、場合によっては仮定的意味合いを含んで、厳格に「(今は違うが本来なら)~であるべきだ」というニュアンスを含むこともある。

ここは、国家を論じているだけでなく、最後の「結論」として「重く」用いているので、厳格な意味合いであることは容易に想像がつく。

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