最新記事

新型コロナウイルス

ワクチン接種進むアメリカで「変異株の冬」に警戒が高まる

BEWARE A WINTER SURGE

2021年5月29日(土)08時10分
フレッド・グタール(本誌記者)

210601P18_CFY_02.jpg

気候がよくなって戸外の人出が増えたラスベガス ROGER KISBY-BLOOMBERG/GETTY IMAGES

アメリカでは専門家の見解も揺れている。ワクチン接種などで大きな進展があったと誇る一方、終息には程遠いと警告を発してもいる。

ワイルコーネル医科大学のウイルス学者ジョン・ムーアは言う。「まだパンデミック(世界的大流行)以後の段階ではない。一部の人はそう信じたいようだが」

あのファウチ博士でさえ、昨年末にワクチンの配布計画を発表した段階では楽観的で、秋までに米国内で集団免疫(人口の相当数に免疫ができて感染拡大を阻止または大幅に抑止できる状態)を実現できると考えていたようだ。

「きちんとやれば人口の70%から85%にワクチンを接種できる。そうなれば免疫の傘で国全体を守れるから、ウイルスの勢いが十分に低下し、実質的に集団免疫を確立できるだろう」。ファウチは当時、医療系サイトの「ウェブMD」でそう語っていた。

その期待どおりにいきそうもないことは、今や明らかだ。

今年2月、シアトルにあるワシントン大学健康指標・評価研究所(IHME)の疫学者アリ・モクダッドらは世界中から集めたデータを基に、季節の違いやマスク着用率、ワクチン接種率などの変数を加えて今後の感染状況をシミュレーションした。

「結果を見て私たちは目を疑った」と、モクダッドは言う。

その晩、彼は眠れず、レバノンにいる母親に電話をかけた。病弱の母親とは1年半も会っていない。だからすぐに航空券を手配し、会いに行こうと決めた。さもないと当分は会えなくなると考えたからだ。

「冬にはまたロックダウンになり、移動が制限されるだろう」とモクダッドは言う。「見通しは暗い」

モクダッドを動揺させたシミュレーションを見る限り、アメリカでも当分は集団免疫の実現を見込めない。「冬までに実現するのは無理だ」とモクダッドは言う。「そういう計算にはならない」

なぜか。1つには、12歳未満の児童へのワクチン緊急使用許可を当局が承認しなかったため、彼らが年内に接種を終えることは不可能という事情がある。

そしてもちろん、接種対象の成人の全てがワクチン接種を受けるとは思えない。各種の調査によると、ワクチンを拒否する考えの人は依然として全体の約30%を占めている。

IHMEの試算では、12~15歳の学童についてもワクチン接種の拒否率は30%程度という前提に立っているが、自分の子に対する接種を拒否する考えの親はもっと多いかもしれない。

ワクチンの接種ペースは既に落ち始めている。米疾病対策センター(CDC)によると、米国内の1日当たり接種回数(過去7日間の移動平均値)は4月11日の約330万回がピークで、以後は急低下している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米財務省、中長期債の四半期入札規模を当面据え置き

ビジネス

FRB、バランスシート縮小ペース減速へ 国債月間最

ワールド

米、民間人保護計画ないラファ侵攻支持できず 国務長

ビジネス

クアルコム、4─6月業績見通しが予想超え スマホ市
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 8

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 9

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 10

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中