最新記事

新型コロナウイルス

ワクチン接種進むアメリカで「変異株の冬」に警戒が高まる

BEWARE A WINTER SURGE

2021年5月29日(土)08時10分
フレッド・グタール(本誌記者)
国立アレルギー・感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長

ファウチ博士でさえ昨年末には集団免疫実現に楽観的だった(今年5月11日、米上院) Greg Nash-Pool-REUTERS

<規制が解除され明るい兆しが見えてきたが、当面は集団免疫を実現できないことがはっきりしてきた。本当に怖いのは秋以降だと専門家たちは警鐘を鳴らす(前編)>

世界有数のワクチン製造能力を誇るインドが、いま世界最大の感染爆発で地獄を見ている。病院には新型コロナウイルス感染症の患者があふれ、酸素ボンベは足りず、どこかの冷凍倉庫でワクチンが盗まれたとの報道もある。

しかし地球の裏側のアメリカでは一部の政治家が、もう感染予防の我慢は限界だと気勢を上げている。

医師としてコロナ対策の先頭に立ってきた国立アレルギー・感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長に向かって「この1年間、アメリカ人の自由は脅かされてきた。そう思わんかね」と食ってかかったのは共和党のジム・ジョーダン下院議員。

同じく共和党のアラバマ州知事ケイ・アイビーはFOXニュースの取材に対し、「もう1年以上になる。さっさと前へ進むべきだ。いつまでも政府の命令に従ってはいられない」と語っている。

この夏は多くのアメリカ人がバーベキューを楽しみ、客の戻った人気バーに繰り出し、レストランにもコンサートにも行くことだろう。

5月上旬にはテキサス州とフロリダ州でビーチとバーがオープンした。いわゆる「医療崩壊」をアメリカで最初に経験したニューヨーク市でも、7月1日からは商店の通常営業が認められる。ニューヨーク州や隣接するニュージャージー州、コネティカット州は前倒しで5月19日に規制解除に踏み切った。

このままワクチン接種が進めば新規の感染は減る。恋人たちの夏は、もうすぐそこだ。

しかし、この感染爆発はまだ終わっていない。ワクチンやその他の感染予防策をめぐって、アメリカ人の賛否は分かれている。

ワクチン接種のペースは落ち、この冬までに集団免疫ができる可能性はほぼ消えた。つまり、新型コロナウイルスへの免疫を持たないアメリカ人が相当数いる状態は秋になっても確実に続く。

もちろん世界には似たような状況の人が無数にいて、彼らにワクチンの恩恵が届く見込みはない。

終息には程遠いとの警告も

だから感染の拡大は世界中で、今後も続く。そうであればウイルスが変異する余地は山ほどあり、既存のワクチンが効きにくくなる可能性が高まり、危険な変異株が新たな感染爆発を招くかもしれない。

そうすればロックダウン(都市封鎖)や旅行の制限、集会の禁止やマスク着用の義務が復活し、来年までにはコロナ以前の「常態」に戻れるという夢は破れるだろう。

1年前の感染爆発は、いわば「今そこにある危機」だった。78億人の地球人が誰一人、このウイルスへの免疫を持っていなかった。

今の状況は違う。私たちを待ち受ける次なる感染爆発は予測不能で不確実、しかも分断されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国人民銀には追加策の余地、弱い信用需要に対処必要

ビジネス

訂正(17日配信記事)-日本株、なお魅力的な投資対

ワールド

G7外相会議、ウクライナ問題協議へ ボレル氏「EU

ワールド

名門ケネディ家の多数がバイデン氏支持表明へ、無所属
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画って必要なの?

  • 3

    【画像】【動画】ヨルダン王室が人類を救う? 慈悲深くも「勇ましい」空軍のサルマ王女

  • 4

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 5

    パリ五輪は、オリンピックの歴史上最悪の悲劇「1972…

  • 6

    人類史上最速の人口減少国・韓国...状況を好転させる…

  • 7

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 8

    ヨルダン王女、イランの無人機5機を撃墜して人類への…

  • 9

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 10

    アメリカ製ドローンはウクライナで役に立たなかった

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 7

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 8

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 9

    温泉じゃなく銭湯! 外国人も魅了する銭湯という日本…

  • 10

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中