最新記事

安楽死

「安楽死」という選択肢があるおかげで、生き続けられる人もいる

EXTENDING THE RIGHT TO DIE

2021年4月14日(水)17時42分
ピーター・シンガー(米プリンストン大学生命倫理学教授)
安楽死(イメージイラスト)

BORIS ZHITKOVーMOMENT/GETTY IMAGES

<社会の高齢化が進むなか、世界各国で安楽死を認める法整備が進んでいる。世界が「死ぬ権利」を支持する理由>

安楽死を援助する権利を認めようという動きが、世界中で広がりを見せている。

スペイン議会は今年3月、「耐え難い苦痛」を伴う「深刻な不治の病」を患う成人が、安楽死のために医師の助けを求めることを認める法案を可決した。医師は患者が自分で服用できるように致死量の薬を処方するか(自死援助)、または致死量の薬物を投与することができる(自発的安楽死)。

ポルトガル議会も今年1月末、終末期の患者に自発的安楽死を認める法案を可決した。

もっと進んでいる国もある。カナダ議会は2016年、自然死が「合理的に予見可能」である患者への医師による安楽死の援助を合法化した。この法律は、自死援助と自発的安楽死を違法とする刑法が、憲法の一部である「カナダ権利自由憲章」に反するという最高裁の判断を受けて制定された。

この法律は、5年後に議会が見直しを行うことを義務付けた。法律の運用状況の検証に加えて、安楽死に関する2つの問題について国民的議論を形成するためだ。

第1に、事前の要請を認めるかどうか(例えば、今は認知症の初期段階で人生を楽しんでいるが、認知能力が失われたら生き続けたくない場合など)。第2に、精神疾患によって耐え難く治療不能な苦痛を味わっている患者の安楽死を援助できるかどうかだ。

社会の高齢化に伴って認知症を発症する人が増えるにつれ、事前に安楽死を要請することが許されるかどうかという問題はより差し迫ったものになるだろう。オランダの最高裁は昨年、認知症患者が書面で安楽死を求めていた場合、同意する能力が失われた後に安楽死の処置を行った医師は訴追できないという判断を下した。

安楽死の事前要請を認める最も重要な理由は、カナダで安楽死容認の運動に携わったジリアン・ベネットが「抜け殻」と呼んだ状態になるのを恐れずに、認知症初期段階の患者が人生を楽しめることだ。認知症と診断されたベネットは、看護師の世話に頼るだけの人生を生きたくはないという思いから、安楽死を選んだ。

今年3月にカナダで成立した新法は、精神疾患が唯一の理由である場合には第三者の援助による安楽死を禁じているが、この条項は2年後に失効することになっている。議会はそれまでに、安楽死を求める精神疾患の患者の苦しみが治療不能かどうかを確認する方法を認定しなくてはならない。

治療のできない苦しみを味わっている精神疾患の患者がいることは、ほとんど疑いの余地がない。不治ではあるが終末期ではない身体的な病気の苦しみに安楽死の援助が得られるなら、それと同じか、もっとひどい不治の精神的な苦しみが援助に値しないはずはない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:現実路線に転じる英右派「リフォームUK」

ビジネス

ネクスペリア中国部門「在庫十分」、親会社のウエハー

ワールド

トランプ氏、ナイジェリアでの軍事行動を警告 キリス

ワールド

シリア暫定大統領、ワシントンを訪問へ=米特使
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「今年注目の旅行先」、1位は米ビッグスカイ
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 5
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつか…
  • 6
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 7
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 8
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 10
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中