最新記事

移民政策

アメリカで再浮上する移民危機、トランプの攻撃材料に

Biden Must Fix Border Situation Fast, Democrats Say

2021年4月8日(木)18時31分
エイドリアン・カラスキーヨ
テキサス州ドナの移民収容施設

テキサス州ドナの収容施設は未成年の移民で満杯、満足に寝る場所もない Dario Lopez-Mills/Pool via REUTERS

<コロナ対策で実績を上げたバイデン政権だが、移民対策に手こずれば中間選挙でトランプ派の巻き返しも>

米バイデン政権は就任以来、ワクチン接種拡大によるコロナ抑え込みで支持率を稼いでいるが、一方では、アメリカへの移住を目指す中南米出身者がメキシコとの国境になだれ込む「移民危機」が大問題になってきた。米民主党も危機感を募らせている。ジョー・バイデン米大統領がこの状況を速やかに打開できなければ、フロリダ州の別荘で不遇をかこつドナルド・トランプ前大統領が自分の移民政策は「正しかった」と主張し、4年後の政権復帰に向けて勢力を回復しかねないからだ。

国境地帯に集まった入国希望者の中には、家族ぐるみで移住を目指す人たちもいるが、祖国で犯罪グループなどの暴力に耐えかねて、単独で逃れてきた未成年者も多い。保護者が同伴していない未成年の入国希望者数は今年3月、これまでの最多だった2019年5月の約1万2000人を上回り、約1万9000人に達した。

バイデン政権は、移民政策では当初メッセージの発信の仕方でつまずき、その後はもっぱら今の状況をもたらしたのはトランプの責任だと主張し続けてきた。トランプの強硬な移民「追い返し」政策のせいで、国境地帯の収容施設にはベッドなどの十分な設備もなく、人道的な収容ができる状態ではない。冬が終わり、気候が温暖になる今の時期は毎年、入国希望者が殺到することが分かっているが、就任後まもないバイデン政権は、彼らを収容する準備を進める時間もないまま、この季節を迎えることになった、というのだ。

甘い顔をしたせいだと批判

だがトランプとその取り巻きにとっては、今の状況は民主党批判の格好の材料になる。人道的な立場からトランプの「ゼロ・トレランス(不寛容)」政策を激しく批判してきた民主党が、皮肉にも最悪の人道危機を招いているようにも映るからだ。

民主党のホアキン・カストロ下院議員(テキサス州選出)によると、トランプは入国希望者の扱いで「非人間的な冷酷さ」を見せつけてきたが、今は「それ見たことか」とバイデンの移民政策を批判できる立場になった。

「状況を改善できなければ、民主党は(トランプの)強引な理屈づけで大ダメージを受けかねない」

カストロの言う「強引な理屈づけ」とは、大統領選で人道的な移民政策を唱えていたバイデンは、トランプが不法移民に実施した「親子引き離し」のような厳しい法的措置を取れず、それを見越して中南米から不法移民予備軍が大量に押し寄せ、今の危機的状況になった、というものだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米GDP、第1四半期は+1.6%に鈍化 2年ぶり低

ビジネス

ロイターネクスト:米第1四半期GDPは上方修正の可

ワールド

プーチン氏、5月に訪中 習氏と会談か 5期目大統領

ワールド

仏大統領、欧州防衛の強化求める 「滅亡のリスク」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    自民が下野する政権交代は再現されるか

  • 10

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中