最新記事

選挙

ブラジル大統領選、収賄罪が無効となったルラ氏再出馬の可能性で左右両極激突か

2021年3月14日(日)17時29分

ブラジル連邦最高裁は8日、左派のルラ元大統領に対する収賄罪などに基づく有罪判決を取り消す判断を下した。写真は2020年11月、サンベルナルド・ド・カンポで撮影(2021年 ロイター/Amanda Perobelli)

ブラジル連邦最高裁は8日、左派のルラ元大統領に対する収賄罪などに基づく有罪判決を取り消す判断を下した。これによってルラ氏は政治的な権利を回復。初めて大統領選に出馬した1989年から30年余りの時を隔てて、2022年の次回大統領選に再出馬できる態勢が整ったように見える。

元労組リーダーのルラ氏の政治生命が不死鳥のようによみがえったことで、来年の大統領選は既視感もある構図になろうとしている。つまり左派ルラ氏と、現職で右翼のボルソナロ氏が対決し、有権者は左右両極の政治家のどちらかを選ぶしかなくなる状況だ。

ダルマ・ポリティカル・リスク・アンド・ストラテジー(ブラジリア)の創設者、クレマル・デ・ソウザ氏は「選挙の全体像を変えてしまう出来事だ。まだ、ほんの序盤戦なのは確かだが、これで、より穏健な中道志向の候補は勢いが削がれる」と指摘する。

それはボルソナロ氏にとって、おあつらえ向きの展開なのも間違いない。

18年の選挙で元軍人のボルソナロ氏は、ルラ氏と後継者のルセフ氏が03年から16年まで率いた労働党政権の「負の遺産」を「根絶」すると約束して当選を果たした。当時のボルソナロ氏の主張は単純で、怒りに満ちた内容だったが、絶大な効果を発揮した。

左派について、ブラジルをベネズエラのような破滅に向けて一直線に進ませようとしていると批判。中央政界は骨の髄まで腐敗しているとも糾弾した。既存の大政党とつながりのない自分のような、本音をさらけ出す右翼の部外者こそがブラジルに必要だと訴え、有権者の心をつかんだ。

もっとも米国で「(首都・ワシントンの)ヘドロをかき出す(drain the swamp)」と口にして当選したトランプ前大統領が、再選に失敗したことでも分かることがある。そのようにうそぶく当人が任期中、まさに腐敗の中心にいた場合、再選されるのは難しいということだ。

問われる現職の実績

ブラジルは、現在も苦しみ続けている。新型コロナウイルス感染症の死者は25万人に上り、経済はボルソナロ氏の大統領着任時よりも悪化。汚職一掃の取り組みは挫折している。18年のように、国民の怒りの矛先が、今回も労働党に向くかどうかは分からない。

また、たとえボルソナロ氏が、過去の左派政権の間違いを再び攻撃するチャンスに飛びつくとしても、同氏自身が大統領としての仕事ぶりを有権者から審判されるのは避けられない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

S&P、トルコの格付け「B+」に引き上げ 政策の連

ビジネス

ドットチャート改善必要、市場との対話に不十分=シカ

ビジネス

NY連銀総裁、2%物価目標「極めて重要」 サマーズ

ビジネス

パラマウント、スカイダンスとの協議打ち切り観測 独
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中