最新記事

生物

「タコには身体的かつ感情的な痛みがある」との研究結果

2021年3月12日(金)15時00分
松岡由希子
タコ

「タコの反応は、哺乳類にみられる痛みと類似している」 heSP4N1SH-iStock

<無脊椎動物で最も複雑な神経系を持つタコの痛みについて研究してきた米サンフランシスコ州立大学の研究チームは「タコには身体的および感情的な痛みがある」との研究論文を発表した......>

痛みは、単なる有害な刺激への反射ではなく、苦痛やストレスをもたらす複雑な感情状態である。脊椎動物にはこのような痛みの身体的・感情的側面があると考えられているが、神経系がより単純な無脊椎動物に同様の機能があるかどうかはまだ十分に解明されていない。

タコは無脊椎動物で最も複雑な神経系を持つ

米サンフランシスコ州立大学の神経生物学者ロビン・クルック准教授らの研究チームは、長年、無脊椎動物で最も複雑な神経系を持つタコの痛みについて研究してきた。2013年6月に発表した研究論文では、「頭足類は侵害刺激(痛みを起こす刺激)に反応し、学習によって有害な状況を回避する」ことを明らかにしている。

研究チームは、タコの痛みのメカニズムについてさらに研究するべく、実験マウスの痛覚実験と同様の手順を応用してタコの痛覚実験を実施し、その自発痛関連行動と神経活動を測定。2021年2月21日にオープンアクセスジャーナル「アイサイエンス」で「タコには身体的および感情的な痛みがある」との研究論文を発表した。

この実験では、3つに仕切った水槽にタコを入れ、15分間、水槽内を自由に探索させた後、そのうち8匹に酢酸を注射し、7匹に生理食塩水を注射した。酢酸を注射されたタコは、その後、注射された「部屋」を明らかに回避する行動がみられた一方、生理食塩水を注射されたタコにはそのような行動はみられなかった。

さらに、鎮痛剤のリドカインをタコに投与した。酢酸を注射されたタコは、リドカインを投与されて痛みが和らいだ「部屋」をすぐに好むようになったが、生理食塩水を注射されたタコは、リドカインを投与された「部屋」をそれほど気にする様子がなかった。

「タコの反応は、哺乳類にみられる痛みと類似している」

また、酢酸を注射されたタコは、注射から20分にわたって注射部位を気にするような反応をみせた後、嘴でその部位を取り除いた。一方、生理食塩水を注射されたタコにはこのような身づくろい行動はみられなかった。
研究チームは、電気生理学的記録を用いて、腕の侵害刺激に関してタコの脳が受け取る情報も分析した。その結果、酢酸の注射後、30分以上にわたって末梢反応がみられ、酢酸の注射部位にリドカインを投与すると、その反応がすぐに鎮静した。

研究論文では、「一連の実験結果は、タコの痛みに持続的な負の感情状態があることを示している」とし、「頭足類に意識や感覚があることを示す証拠はないものの、今回の痛覚実験で示されたタコの反応は、哺乳類にみられる痛みと類似している」と結論づけている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中