最新記事

コロナ変異株

感染対策の楽観論を砕いたコロナ変異株 免疫仮説の抜本修正必要に

2021年3月5日(金)16時58分

米ワシントン大学保健指標評価研究所(IHME、シアトル)のクリス・マーレイ所長が新型コロナウイルスの感染数と死者数について示す予測は、世界中から注視されている。写真は2020年12月、米カリフォルニア州グレンデールの病院え、新型コロナウイルスワクチンの接種を準備する医療従事者(2021年 ロイター/Lucy Nicholson)

米ワシントン大学保健指標評価研究所(IHME、シアトル)のクリス・マーレイ所長が新型コロナウイルスの感染数と死者数について示す予測は、世界中から注視されている。しかし、同氏は今、流行の先行きについて仮説を修正しつつある。

マーレイ氏は最近までは、幾つかの有効なワクチンの発見が集団免疫の達成を助ける可能性があることに希望を抱いていた。あるいは接種と過去の感染が組み合わさることで、他人への感染をほぼゼロにできる可能性があるとも期待していた。しかし、先月に明らかになった南アフリカでのワクチン臨床試験データは、感染力の強い変異株がワクチンの効果を弱める可能性があるだけでなく、感染したことのある人の自然免疫をもくぐり抜ける恐れがあることを示した。

このデータを見た後は「眠れなかった」とマーレイ氏はロイターに打ち明けた。「コロナ流行は一体いつ終わるのか」と同氏は自問する。現在は変異株が自然免疫をかいくぐる能力を考慮に入れるため、自分の研究モデルを修正中で、早ければ今週中にも最新の流行予想を発表するつもりだ。

ここ数週間のデータで希望は後退

コロナ流行を追跡分析したり、その影響の抑制に取り組んだりしている18人の専門家にロイターがインタビューした結果、新たなコンセンサスが急浮上していることが明らかになった。専門家の多くによると、昨年の遅い時期に約95%の有効性を示す2種類のワクチンが登場したことで、「はしか」のようにコロナウイルスもおおむね抑制できるとの希望がいったんは強まっていたという。

しかし、南ア型やブラジル型の新たな変異株を巡ってここ数週間に出てきたデータは、そうした楽観的な見方を打ち砕いたという。専門家らは今、コロナは一定の地域や季節に一定の罹患率で広がり続けるウイルスとして地域社会に残るというだけでなく、今後何年も発症者や死者の多大な犠牲を招く可能性が大きいとの見方に変わっている。

こうしたことから、人々は、特に高リスクの人々は、習慣としてのマスク着用や、感染急増時の混雑回避などの対策が今後も必要になるとみられるという。

バイデン米大統領の医療顧問トップを務める米国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長はインタビューで、ワクチン接種後であっても、変異株が出てきているのならば「自分はこれからもマスクを着用したい」と語った。ちょっとした小さな変異株が出現するだけで、これが次の流行急増を誘発し、いつ生活が正常化するかの見通しをがらりと変えてしまうとも指摘した。

マーレイ氏をはじめ一部の科学者は、予想が改善する可能性もあるとも認める。記録的なスピードで開発された新しいワクチンは、変異株が感染力を高めている中でもなお、入院や死亡は防いでいるように見える。変異株に高い有効性を維持し得る再接種用や新規接種用のワクチン開発も、多く手掛けられている。そもそも、免疫システムがコロナウイルスと闘う能力について、分からないことはまだたくさんあるという。

既に多くの国で、年明け後に感染率の低下が見られた。優先接種された人々の重症化や入院が劇的に低下した例もある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

消費税は大切な財源、安定財源なしの無責任な減税でき

ワールド

ウクライナ首都と周辺に夜間攻撃、8人死亡・多数負傷

ワールド

イスラエル、イラン首都に大規模攻撃 政治犯収容刑務

ワールド

ゼレンスキー大統領、英国に到着 防衛など協議へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「過剰な20万トン」でコメの値段はこう変わる
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり得ない!」と投稿された写真にSNSで怒り爆発
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 6
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 7
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    EU、医療機器入札から中国企業を排除へ...「国際調達…
  • 10
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 6
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 7
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 8
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 9
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 10
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中